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スキな人 [ことばの元気学]

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土屋耕一さんが亡くなった。大切な先輩だった。この人からは、いろいろなことを学んだ。
特に、書き言葉と話し言葉を混ぜ合わせた独特の文体(言文一体とぼくらは呼んだ)が魅力的で、ぼくも大いにその影響を受けている。
本業はコピーライターで、資生堂や伊勢丹や明治製菓などに、名コピーを数多く残した。
が、多芸多才というのか、広告コピーだけでなく、俳句や回文やエッセイや絵などにも、洒脱な作品を数多く残している。とくに、この人の俳句がぼくは好きだ。
  
  原節子小津安二郎金魚鉢
  春待つや寝ころんで見る犬の顔
  大乳房あたまはよわし四月馬鹿
  冬めくや脱げというんなら脱ぎますけど

数寄な人だった。風流人だった。いかにも麻布生まれの、江戸っ子らしい粋人だった。
昔、ぼくのところから「土屋耕一全仕事」という本を出したとき、永六輔さんに「土屋さんについて何か書いてください」と頼んだら、とてもいい原稿を書いてくれた。その冒頭だけご紹介。

ヘェヘェ 土屋さまのことで。
昔は よく 雑俳なんぞひねる会でご一緒をいたしましたが 昨今は 私が旅暮しなもんで なかなか……。
でもね ひょんな時に街でばったりと、
えェ おや お元気で なんてね えェ。
その土屋さまが 向うから歩いて来なさる時の 風情がよございますよ。
なんと申しあげたらよろしいか……。
金策に失敗した番頭さんが ご主人への言い訳を考え乍ら歩いているような。
えェ それから 生活の苦しい御公家さまが なすこともなく ただ こう ただ歩いていらっしゃるような。
時には 世の中にすねた揚句の遊び人が 女と別れて歩いてきたような。
どちらにしても この現代の空気を吸っているとは思えない風情なんでございますよ。

そんな土屋さんが、生き馬の目を抜く広告の世界でチャキチャキの売れっ子とは……と、そのあと永さんの原稿はつづくのだが、土屋さんの持っていた雰囲気を、永さんの目は実に的確にとらえている。しかも、土屋さんのような文体で書いているところがにくい。

こういう粋な人が、またひとりいなくなって、悲しい。さびしい。くやしい。
ユーモアの通じない野暮な石頭ばっかりが、この国ではふえていく。

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