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スキな人 [ことばの元気学]

1土屋.jpg

土屋耕一さんが亡くなった。大切な先輩だった。この人からは、いろいろなことを学んだ。
特に、書き言葉と話し言葉を混ぜ合わせた独特の文体(言文一体とぼくらは呼んだ)が魅力的で、ぼくも大いにその影響を受けている。
本業はコピーライターで、資生堂や伊勢丹や明治製菓などに、名コピーを数多く残した。
が、多芸多才というのか、広告コピーだけでなく、俳句や回文やエッセイや絵などにも、洒脱な作品を数多く残している。とくに、この人の俳句がぼくは好きだ。
  
  原節子小津安二郎金魚鉢
  春待つや寝ころんで見る犬の顔
  大乳房あたまはよわし四月馬鹿
  冬めくや脱げというんなら脱ぎますけど

数寄な人だった。風流人だった。いかにも麻布生まれの、江戸っ子らしい粋人だった。
昔、ぼくのところから「土屋耕一全仕事」という本を出したとき、永六輔さんに「土屋さんについて何か書いてください」と頼んだら、とてもいい原稿を書いてくれた。その冒頭だけご紹介。

ヘェヘェ 土屋さまのことで。
昔は よく 雑俳なんぞひねる会でご一緒をいたしましたが 昨今は 私が旅暮しなもんで なかなか……。
でもね ひょんな時に街でばったりと、
えェ おや お元気で なんてね えェ。
その土屋さまが 向うから歩いて来なさる時の 風情がよございますよ。
なんと申しあげたらよろしいか……。
金策に失敗した番頭さんが ご主人への言い訳を考え乍ら歩いているような。
えェ それから 生活の苦しい御公家さまが なすこともなく ただ こう ただ歩いていらっしゃるような。
時には 世の中にすねた揚句の遊び人が 女と別れて歩いてきたような。
どちらにしても この現代の空気を吸っているとは思えない風情なんでございますよ。

そんな土屋さんが、生き馬の目を抜く広告の世界でチャキチャキの売れっ子とは……と、そのあと永さんの原稿はつづくのだが、土屋さんの持っていた雰囲気を、永さんの目は実に的確にとらえている。しかも、土屋さんのような文体で書いているところがにくい。

こういう粋な人が、またひとりいなくなって、悲しい。さびしい。くやしい。
ユーモアの通じない野暮な石頭ばっかりが、この国ではふえていく。

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発電藷


街なかでふと、風情のある立ち姿やしぐさの方を見かけると、ほんわかとした気持ちになって、その日一日はうきうきとした心持ちで過ごせます。
そんな人が、野暮ったく凡俗な人ごみの中でも、自分だけの独特な雰囲気でもって立ち振る舞う姿には憧れの気持ちを抱きます。

by 発電藷 (2009-04-11 23:26) 

あさちゃん

天野さん、こんばんは。
ここのブログも朝日新聞のエッセイもすごく楽しく拝見させていただいています。
子供が通っていた上海の日本人学校に永六輔さんが来られて
講演してくださったとき
その言葉一つ一つが心にす~っと入ってきたことを思い出しました。
私も染み入る言葉を語れるように勉強します。
がんばってください。
by あさちゃん (2009-04-12 00:14) 

銀鏡反応

ついこの間まで、私は土屋さんについては全く御存知なかったのですが、このブログの前のエントリーに寄せられたご感想で知りました。

『こんにちは土曜日くん』という、伊勢丹の昔のキャッチコピーが実はその土屋さんの作品だと言う事も、ごくごく最近になって知った次第です。(汗)

原節子小津安二郎金魚鉢…う~む、何となく小津映画の一場面のような、ほっこりしたような、小春日和のような情景が浮かんできますね・・・。

おぉ、そういや、「小春日和」という言葉、こちらの記憶に間違いなければ、小津作品のタイトルなのではないかと思われますが…。

私は週末、よく銀座などに足を踏み入れますが、町を歩いている人の中に、何とも粋な振るまいをする人をみると、はっ!と気が惹かれてしまいます。

今様のファッションに身を包んでいても、何だか野暮なオーラを放っているような人が多く歩く中で、そういう人は、ホレボレするような、すっ!とした何かを全身から発散しているような気がします。

でも、そんな素敵な人が、時の流れとともに、段々少なくなってきている気がするのは、残念な気がします。
by 銀鏡反応 (2009-04-12 10:39) 

あかみどり

「君のひとみは10000ボルト」
子供心にビビビ、とくるコトバだなあと思いました。
それからだいぶ経って、コピーライターという職業、
そして土屋耕一という人がこのコトバを考えたんだと知りました。

「おれ、ゴリラ。 おれ、景品。」
「日の丸となって、腐敗とたたかう」
「女の記録は、やがて、男を抜くかもしれない。」
これらのコピーはリアルタイムでは記憶していませんが、
どことなくカラッとして軽やかで、今もってビビビ、
時にはフフフとなります。

本や雑誌などを通してでしか知りえない人でしたが、
サァーと一陣の風がかけぬけた後の寂しさを感じます。

by あかみどり (2009-04-14 10:00) 

バストアップ

天野様、はじめまして。
素敵な文章、つい見入ってしまいました。
これからもよろしくお願いいたします。
by バストアップ (2009-04-15 14:38) 

バストアップサプリ 口コミ

天野さん、こんにちは。
文章のテンポが好きで、たまに
訪問させていただいております。
by バストアップサプリ 口コミ (2009-04-15 14:39) 

僕、生まれました!

若い人にも期待して欲しいです。

そんなおじいちゃんがいっぱい いたら
生まれて来て良かったあ!って思えるんですけどね
by 僕、生まれました! (2009-04-15 17:35) 

あまの

「発電藷」さん。
ゆとりが、その人のまわりに独特の空気の層をつくるんでしょうね。

「あさちゃん」さん。
永さんも、いまや数少ない江戸の下町っ子ですね。この人たちに共通している美点は、「てれくさがり」ってことでしょうか。「羞恥心」なんて言葉が嫌いな羞恥心の持ち主たちです。

「銀鏡反応」さん。
雨の日にすれ違うときは、お互い、傘をかしげてすれ違う。「江戸しぐさ」って、いいですね。「行儀がいい」からいいんじゃない、「かっこいい」からいいんだと思います。

「あかみどり」さん。
「ああ、スポーツの空気だ」というのも好きです。ナイキのCMのコンセプトですよね、まるで。

「僕、生まれました!」さん。
ほんとにそうですね。面白い「ご隠居さん」がたくさん出てきてほしい。ぼくもいま、それをめざしています。









  


by あまの (2009-04-16 10:46) 

ここみ

初めまして。

いつも応援していますよ~。
お仕事頑張ってくださいね!

また遊びにきますね。

by ここみ (2009-04-17 13:51) 

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