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あんこは死なない [あんこ学]

前回の最後に「あんぱんの登場」に触れました。大津波から逃れるために、西洋伝来のパンのなかに、あんこはこっそり身を隠したんですね。そうやって、生き延びたんですね。そのくらい、あんこはしぶといのです。
で、きょうはそのしぶとさについて考えたいと思うのですが、前回、ご紹介した近江八幡「たねや」の最中を見たgilmannさんから、「たねやの栗饅頭が食べたい」というお声がかかりました。で、さっそくそれを取り寄せました(というのは嘘で前回の最中と一緒にいただいていた)ので、ま、ひとくち召し上がりながら、きょうの話を聞いてください。それにしても、この栗饅頭は、まじめで、上品で、とてもおいしい。え?お茶?自分で入れなさい。

さて、あんこはしぶとい。原料の小豆は、かなり昔に中国から朝鮮を経てわたってきたらしいのですが、中国や朝鮮よりも、日本列島に住む人達に小豆はこよなく愛されてきました。いま、世界の小豆のほとんどは、日本で消費されている。中国と韓国でも少し使われていますが、それ以外の国ではまったくといっていいほど、使われていないそうです。。
どうやってそんなに小豆を食べているか。そう、小豆のほとんどを、あんこにして食べているんです。「小豆=餡」なんですね。
前にもいいましたが、「餡」というのは、食べ物の穴とかスキマとかに詰める具のことです。肉でも野菜でも、中に詰めるのは、なんでも餡。脳みそも、ま、餡の一種かも知れません。ですから、肉や野菜を使った餡は外国にもいろいろありますが、餡に小豆を使うのは日本の専売特許みたいになっている。ここが、とても面白いところなんですね。
もちろん、はじめから小豆は餡になっていたわけではありません。小豆はその赤い色から、古くから縁起物として使われてきました。お赤飯とか小豆粥はその代表選手です。慶事だけじゃありません、弔事にも使われたし、魔除けや厄払いにも使われてきた。つまり、この国の人びとの暮らしの中に、広く、深く根づいてきたんですね。だから、この国に何度も大津波が押し寄せ、国じゅうが仏教文化や西洋文化でびしょびしょになってしまっても、小豆(小豆文化)はしぶとく生き残ってきたのです。

小豆を餡にするのが、いつごろから始まったのか、正確な記録はないようです。が、中国から禅僧が羊羹や饅頭をこの国に持ちこんだあたりから、羊羹の材料や饅頭の餡に使われていた肉や野菜に代わるものとして、小豆がクローズアップされてきたんじゃないでしょうか。それが、「おっ、いいね、これ。イケるじゃん」ってことになって、以来、餡といえば小豆と、この国では相場がきまったんじゃないかと思います。
そんな日本式饅頭の第1号は、塩瀬の饅頭だといわれています。1349年に中国から日本にやってきて奈良に住んだ林浄因という人が作ったんだそうで、塩瀬饅頭のしおりによると、この饅頭は「発酵した皮の香り、フワフワした歯ごたえ、ほのかな甘味の小豆餡と、そのどれもが当時の日本人にとって画期的なもので、大評判になりました」ということです。ついでに、そのしおりによると、林さんがこの饅頭をときの後村上天皇(1328~1368)に献上したところ、天皇はたいへんよろこんで、「宮女を賜った」というんだから、びっくりですね。そんなもの賜ってどうすんのかと思いますが、どうすんでしょうね。

で、このあんこは、「南蛮津波」や「文明開化津波」の来襲で、西洋文化がどっと押し寄せてきても、しぶとく生き残ってきた。カステラやらバターやらチーズやらクリームやらチョコレートやら、お菓子の素材の大洪水に見舞われても、我慢強く生きながらえてきた。いったい、あんこのどこに、そんな力があるのか。あんこのなかに、もしかしたら何かが、あるいは誰かが、ひそんでいるのか。そのへんのモンダイはまたのことにして、今回の「おめめのごちそう」は、あの塩瀬饅頭です。おいしいというか、奥ゆかしい味ですよ。


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銀鏡反応

こんにちは。御無沙汰しています。
「たねや」さんの栗饅頭、とてもおいしそうですね。中の栗あんこもぎっしり入ってますし。それにこれって文字通り「栗あんぱん」って感じにみえますよね。
魔よけ、厄除けの赤い色がついた食べ物からお饅頭の中身や羊羹の材料といったように変わっていったことは、それまで甘いものといったら古くは揚げ菓子、葛とカンゾウくらいしかなかった日本人の甘味の幅をひろげたのに違いありません。ポルトガルから「南蛮菓子」が入って来たことも関係があるような気がします。
塩瀬饅頭の誕生もそれと前後した時代ですよね。創業者がこの饅頭を時の天皇に献上したとき、宮女を賜ったというのは驚きですね。その宮女はその後、どうなったのでしょう?
by 銀鏡反応 (2006-02-18 19:09) 

tami

いつもいつも寝た子をおこすような美味しそうな写真。

じっと写真を眺めながら自分で入れたお茶入れて飲みましたけど、本物が食べた~い。

我が家の主人は日本酒飲みながらでもお饅頭や羊羹を食べます。
天野さんも両刀遣いですか?(笑)
by tami (2006-02-19 17:01) 

gillman

こんにちは
今、「たねや」の栗饅頭食べてます。以心伝心って言うか、昨日かみさんが買ってきたやつです。
餡子のしたたかさは心強いですね。
苺大福なんて、あんなキャピキャピした苺の奴を包み込んじゃうんだから。
餡子、偉いっ!
by gillman (2006-02-20 07:30) 

tami

昨日コメントを残させていただきましたが再び。

今日朝日新聞で茨木のり子さんの訃報を知りました。
一昨年石垣りんさんが亡くなられ、現代詩手帖特集版「石垣りん」のなかの天野さんの「それでよい」を読ませていただいておりました。

その中に
石垣りんさんと、もうひとり女性詩人の茨木のり子さんは、ぼくの”言葉の恋人”である。
とお書きになっていました。
茨木さんの訃報にさぞかしお力落としされておられるのではないかと心配しております。どうかおからだをそこなわれませんようお祈りしています。
by tami (2006-02-20 22:49) 

おさる

こんばんわ!
餡はパンの中に隠れたんですね。
わたしなんかは、隠されると、どうにも気になってしまいます。(笑)
天野さんのブログにお邪魔するようになってから、
なぜか餡子の消費量が増えたような気がします。
塩瀬饅頭おいしそうです。奥ゆかしい味?どんなんでしょうね(笑)
お取り寄せするでし!!
おやすみなさいませ。
by おさる (2006-02-20 22:55) 

anmomo

こんにちは。本日は「栗饅頭」を載せて頂けたんですね^^
あまりしつこく無く頂けるので最中同様好きなお菓子のひとつです。

ここに記載されています。第一号のお饅頭も凄い興味がありますね。
見る限りではとてもお上品な感じがしますが。。。。。。
一度頂いてみたいものです。
by anmomo (2006-02-21 17:04) 

sola

林さんのお気持ち……そんなもの賜りたくなかったでしょうか。賜りすぎですよねぇ。。しかし賜っちゃったんだからしょうがない。きっとありがたくお賜りになったことでしょう!
天野さん、思いっきり爆笑させていただきました。ありがとうございます。

さて、毎回点検?(笑)にお邪魔するたびに、携帯のあんこメモが増える一方です。いつになったらお目にかかれるやら……。
本日は塩瀬饅頭ですか。コレは東京のようですので、ちゃんと食える日も、あ、失礼いたしました、レディにあるまじき発言を。
出会える日も近いかと存じます、ハイ。
by sola (2006-02-21 20:55) 

bebe

こんにちは。あんこについての様々な考察と歴史。いつも楽しみにしていますが、実はそれよりも実家で可愛い娘の帰省をクビを伸ばして待っている"バカなあんこ好き"の我が親父様への手土産選びに重宝させていただいております。
東京へ出てきて丸3年になりますが、帰省の際の土産のネタが尽きてきて、一方、親父はどんどん舌が肥えてきて変なものじゃぁ満足しなくなっており、ほとほと困り果てておりましたが、ここ2回の帰省の際はこのブログのおかげで親父様のご機嫌も上々です。

小さい頃はたまに親父がどこからか買って来るあんこ(あんこそのもの)をバットにあけて冷やして、羊羹状にナイフで切って食べていた記憶が。今でも普段饅頭なんかは見向きもしない西洋からの大津波にどっぷり飲まれた私ですが、正月やお彼岸なんかにばあちゃんが作った漉し餡をこっそり台所の鍋からスプーンですくって食べるのは好きです。
by bebe (2006-02-21 21:32) 

あまの

「銀鏡反応」さん。お説の通り、南蛮菓子と一緒に「砂糖」も入ってくる。このあたりから、「甘いあんこ」が広まって行くんでしょうね。江戸後期には砂糖の国産化も実現して、あんこ天国が誕生するんだと思います。

「tami」さん。ありがとう。すばらしい詩人でした。と同時に、すばらしい人でした。あ、それから、ぼくは完全な両刀つかいです。というより、甘党のほうですね。

「gilman」さん。びっくり。同じ日に、同じ栗饅頭食べていたなんて。千住の縁かな。

「おさる」さん。塩瀬の饅頭は、たぶん、お近くの百貨店にもあると思います。あのね、甘味が淡くて、一度に3つくらい食べられるって感じですね。でも、食べ過ぎないように。

「anmomo」さん。栗饅頭は外形が栗に似せているから栗饅頭なのに、近ごろは中にでっかい栗がごろっと入っているのが多くて、ぼくは迷惑しています。露骨はいけません。その点、たねやの栗饅頭はとても控えめなところが、ぼくに似て大好きです。

「sola」さん。食えます、食えます、早く食ってください。お近くの百貨店にも、きっとありますよ。

「bebe」さん。お役に立ってさいわいです。お宅のあんころ爺に、どうぞよろしく。
by あまの (2006-02-22 21:50) 

Hona

はじめまして!新聞で天野さんのあんこ好きを知り、さっそくブログ拝見してます。あんこ・・・その味わいのように、歴史も奥深いんですね~。それにしても天野さんはいつも美味しそうな和菓子を召し上がっていて、写真をみて新鮮なよだれ(失礼)がでてくる私・・・。私は練りきり系が好物なのですが、現在地方(山口)にいるため、鮮度の関係か、「おとりよせ」ができないのが非常に残念です。
ところで、あんこの原型はとどめていないのですが、山口名物の「三堀堂」の外郎、美味しいです。名古屋の外郎と違い、つるっとした舌触りでとても上品な味です。名古屋の外郎ほど、あまり知られていないのがとても残念です。ぜひご賞味を~♪
by Hona (2006-04-18 10:46) 

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