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津波はつづく  [あんこ学]

このあんこ列島を、第2の大津波が襲います。15世紀末から16世紀にかけてやってきたその津波は、第1の「仏教津波」に対して、「切支丹津波」とも「南蛮津波」とも言われています。(だれも言ってないよ)。第1の津波を「ナンマイダー津波」、第2の津波を「アーメン津波」と名づけている記録もあるようです。(ありませんって)
1569年に、織田信長はポルトガルから来た宣教師のルイス・フロイスに会っていますが、そのフロイスの「日本覚書」が、ぼくらのご先祖さんの姿を記録していて、とても面白い。あんこに関係はありませんが、ちょっとご紹介しておきましょう。

*ヨーロッパでは、未婚女性の最高の栄誉と財産は貞操であり、純潔が犯されないことであるが、日本の女性は処女の純潔をなんら重んじない。それを欠いても、栄誉も結婚する資格も失いはしない。
*ヨーロッパでは、夫が前方を,妻が後方を歩むが、日本では妻が前方を、夫が後方を歩む。
*ヨーロッパでは、夫婦間において財産は共有であるが、日本では各々が自分の分け前を所有しており、時には妻が夫に高利で貸し付ける。
*ヨーロッパでは男たちのほうが妻を離別するが、日本ではしばしば妻たちが夫を離別する。
*ヨーロッパでは、妻は夫の許可なしに家から外出しないが、日本の女性は夫に知らさず、自由に行きたいところに行く。
*ヨーロッパ人は、乳製品、チーズ、バター、骨の髄などをよろこぶが、日本人はこれらすべてを嫌悪する。彼らには悪臭がひどいのである。         (「フロイスの日本覚書」中公新書より)

この時期のヨーロッパは、いわゆる「大航海時代」ですね。スペイン人やポルトガル人は、キリスト教の布教や貿易の拡大をねらって、日本にもやってきた。で、キリストさんの教えといっしょに、銃やらワインやらガラス製品やらカステラやら金平糖やら、いろんな文化を持ちこみましたま、最終的には、切支丹は禁制になり、日本は鎖国してしまうわけですが、この南蛮津波が日本のお菓子に与えた影響はたいへん大きく、以後、江戸時代に向かって、茶の湯の発展とともに、和菓子の世界も大きく変わっていきます。

トリノにせかされて先を急ぐと、やがてこの国に、第3、第4の大津波がやってくる。第3の津波は、幕末から明治維新にかけての「文明開化津波」、そして第4の津波は1945年の敗戦によって太平洋から押し寄せてきた「メリケン津波」です。
「文明開化」津波では、16世紀に中途半端に入りかけていた「ヨーロッパ」がどっと入ってくる。前はポルトガルやスペインでしたが、今回はドイツやフランスが主役です。7世紀に唐の制度を全面的にとり入れた日本は、こんどはドイツやフランスから近代国家に生まれ変わるためのさまざまな制度をとり入れたんですね。
と同時に、ヨーロッパの文物や、日本人が見たことのないようなものが、続々現れてくる。ざっと、以下の調子です。

*明治元年(1868)/ラムネ、ビール、牛肉屋、西洋洗濯店、ホテル
*明治2年/洋風理髪店、西洋料理店、乗合馬車、新聞、電信、パン屋、洋服屋、牛なべ屋
*明治3年/人力車、靴屋、牛乳屋、鉛筆、自転車、郵便
*明治4年/ミシン、リキュール、ネル、博覧会
*明治5年/鉄道、ガス燈、練乳、ハム、麦わら帽子
*明治6年/太陽暦、石鹸工場、水道、アイスクリーム
*明治7年/野球、紙巻タバコ、マッチ、セメント
*明治8年/コーヒー、目薬、幻燈、下水道、郵便貯金、あんぱん

とまあ、こんなぐあいに、見たこともない文物が押し寄せてくるわけで。、たいへんなことですよね、これは。
でもね、こういう大津波を、ぼくらのご先祖さんは、へらへらしながら、受け止めたんですね。受け止めただけじゃない、受け入れたんです。
その吸収力というか、消化力というか、これはもうオドロキというほかはない。そして、60年前の第4の津波、アメリカニズムの大波に対しても、それはまったく同じことでした。大和なでしこが、あれよあれよというまに、コーラのラッパのみをするようになったんですから。
これを、イギリスの有名な日本史家は、こう言っているそうです。
「いかなる国民も、新しい文化をこれほど早く、しかも、よろこんで受け入れる国民はなかった」
しかし、ですよ。しかしこの人は、つづけてこうも言っているんです。
「けれども、他方、これほど頑強に伝統を固持した国民も歴史上なかった」

さて、いよいよあんこの出番ですが、トリノが大声で呼んでいます。つづきは次回ということにしますが、明治初期にこの国にお目見えした新しいものの最後に、なにがあったか。もう一度、見てください。そう、あんぱん。
といったところで、きょうもおもてなしは到来品。彦根は「たねや」の最中です。あんが、半分は小豆のつぶあん、半分は白えんどうを使ったこしあん。こしあん派とつぶあん派がふたつに割ってたべると、万事うまくいく、という最中かどうかはわかりません。


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スティッチの親分

1569年に来た宣教師のルイス・フロイスさんが言ってる記録は今のまんま同じですね 笑 日本は・・
最後のヨーロッパ人は、乳製品、チーズ、バター、骨の髄などをよろこぶが日本人は好まないってとこだけが今は違いますよね。
今はワイン片手にチーズで優雅に日本人やってますもんね。
第2派はキリスト教だったんですね♪
第3の津波で文明開化津波。
by スティッチの親分 (2006-02-15 09:45) 

スティッチの親分

何故か送信された(キ▼д▼;)トホホ・・
第4の津波がメリケン津波。なるほどです。
明治8年のあんぱん!ここで感動!
ご先祖さんはヘラヘラ受け入れてくれたおかげで今の日本が出来上がったんですね。私はご先祖様に感謝します。
けれども、他方、これほど頑強に伝統を固持した国民も歴史上なかったってのがおかしい!今では、もう面影もない日本ですね。
しかし、なんでも吸収する日本。韓流もそうだしこうやってブログが多くなったのもなんでも吸収する日本だからでしょうか 笑
でも日本って吸収はするのですが、日本風にアレンジしてしまう。
そんな気がします。ブログもそうだと思います。アメリカのブログや海外のブログは本当に情報ブログや議論の場としての提供場となっていますが日本は違いますよね。なんかちょっとおかしい。そんな気がします。
こんな日本。なんでも吸収しますが守り続けてる文化やお菓子もあり
私は日本の昔の女性のように、優雅なしぐさやマナーを忘れない日本人であり続けたいと願ってるんですが、「まじでー!」「うまぁ~い」とか使ってしまうし、冷蔵庫も足で閉めてりします。
ヤマトナデシコ七変化です。では、今夜もトリノ見ましょう♪
それでは、御機嫌よう。お嬢様言葉使ってみました 笑
by スティッチの親分 (2006-02-15 09:58) 

teng

早く、早く続きを(笑)
今の僕の気持は、昔紙芝居を心待ちにしていた
子供とそんなに変わらないと思います。

 イギリスの日本史家の言葉は日本人として誇らしい
というか、嬉しい気持がするのと同時に背筋がシャンと
伸びるような、気が引き締まる気持になりますね。
日本人でよかったと思う瞬間です。
by teng (2006-02-15 12:25) 

ミメイ

あ、いよいよ「あんぱん」が。
そういえば「あんぱん」と似たようなもので「鯛焼き」がありますが(どこが似てるんだ)「鯛焼き」はほとんどがつぶあんですよね。白あんとか、最近ではチーズとかチョコとかもあるけれど、こしあんの鯛焼きってお目にかかったことがないような。
と、ちょっと脱線しましたが、トリノも気になるけど、この続きが気になってしかたがありません。いっそのことTVでオリンピック速報と一緒にこのブログの更新情報を流してくれればいいのに、と思ったりしています。
そういえば(そういえば、ばかりだけれども)海外にも「あんこ」のようなお菓子はあるのでしょうか。豆をつぶして砂糖を加える、というのがあんこの原型だとすれば、海外に同じようなものがあってもおかしくないように思うのですが。
by ミメイ (2006-02-16 14:36) 

sola

明治7年/野球……のぼーる、のぼるさん。。
それにしても麦わら帽子も?
え?そんなものまで押し寄せてきた物ですか?びっくり!
もっともっと昔から日本にあったような……絵とかで見た気がしてました。

ニホンジンはまったく、何でもかんでも受け入れるのが得意ですね。そして勝手にアレンジして、あたかもずっと前からあったかのように。柔軟というか、おちゃらけてるというか、ノー天気というか……しかしそれもある意味才能かとも思ったりします。
その反面、かたくなに守られてるものが日本にはいっぱいあるでしょう!?これからも守られていくでしょうか。この先、日本はどこへ行くのか……あと少し観てられそうですけど。

たねやの最中は仙台では会えません。一石二鳥で楽しめる、こういうアイデアもニホンジン的ですかねぇ?来週神戸へ行くので、時間があったら覗いてきま~す。
by sola (2006-02-16 20:19) 

おさる

こんばんは
日本には真ん中には真空があるんですものね。(笑)
いつぞやのアンパンのアンが真空に見えるのもそうですか?
宇宙人が現れても日本人が一番早く吸収するんでしょうね。
技術は吸収しても、思想は無いから日本は平和ですね。
メリケン波が来ても、やっぱり、仏教が一番強かったんでしょうね。
おっと・・・。トリノ・・・また駄目ですね。寂しいですねぇ。
メダルは1個と思っていたのですが・・・。これほど取れないと・・・。
おやすみなさい。でし。
by おさる (2006-02-17 00:02) 

吉ちょむ

「文明開化津波」と「メリケン津波」を建築の分野で研究しました。
昨日、修士論文を提出してほっとしております。
建築ってすごく総合的な領域だと思うんです。
虚実が一体となっていると言いますか、文学を現世に再現すると言いますか。
イギリスの歴史家が言う日本は、文明から一番遠い辺境に位置して、四方を海に囲まれた島国だったからではないでしょうか。
今は地理的要因は余り重要ではありません。
簡単に言いますと、戦前の日本人は江戸を知っている常識人、戦後は創造に燃える芸術家、これが論文の結論です。
ちなみに、現代と未来の日本人が今後の研究課題です。
正月に小豆を煮ました。
あんこって砂糖だけでは美味しくならないんですね。
少しだけ塩を入れるととたんに深みが出てきました。
by 吉ちょむ (2006-02-17 01:36) 

ぶらっくびねがー

こんばんは。久しぶりに書き込みさせてもらいます。
フロイスさんの覚え書きはとても面白いです。
先日、NHKの「その時歴史が動いた」で山内一豊の妻、千代の話があっていましたが、徳川時代以前の女性はとてもパワフルでいいですね。
「日本ではしばしば妻たちが夫を離別する。」
私も常に彼女さんから離別を告げられています・・・。

やっぱり見てしまうオリンピック。日本のメダルを期待しています。
寝不足な日々が続く・・・。
続きを楽しみにしています。
by ぶらっくびねがー (2006-02-17 02:00) 

gillman

こんにちは、ちょいとご無沙汰しました
 僕は終戦(本当は敗戦ですよね、でもそう言わないところに日本人の頑なさがでている)直後に生まれましたから、まさにメリケン第一波です。そして僕らは、はじめてのテレビ世代でもあります。それは同時に世界史の中ではじめて誕生した国境を越えた横の世代の誕生でもあると思います。
 昔、イギリスやドイツやフランス、アジアの同世代の奴と話すと、誰もが「名犬ラッシー」や「パパ大好き」等を見て育ったのを実感しました。負けたドイツや日本はもちろん、勝ったイギリスやフランスも国内は疲弊して、どこの国の子供もアメリカのテレビのホームドラマに映し出される、大きなGEの冷蔵庫に入った真っ白な牛乳瓶を眩しそうに眺めていたのです。その気持ちも同じでした。(おそらく、それはEC誕生の一つの要因になった心情だと思います) あの頃、世界の中でアメリカだけが一人輝いていました。
 というわけで僕の血の中にはジャズやテレビドラマ等を介して染み込んだ「メリケンの血」がまぎれもなく流れています。と同時に自分の底流にはそれを見つめ、良しとしない頑固な日本教の世界が息づいているのに気づかされることが多々あります。もしかしたら、それが我々の強みであるかもしれませんね。

「たねや」の栗まんも好きだなぁ。
by gillman (2006-02-17 19:09) 

あまの

「スティッチの親分」さん。そうなのです。日本人はスティッチまであっというまにとりこんでしまう。でも。ちゃんと3月のひな祭りもわすれてはいないんですよね。そのうち、内裏様がスティッチのひな人形も出てくるんじゃないでしょうか。えっ?もう出てる?マジでー!

「teng」さん。幕末から明治初期に日本にやってきた外国人は、例外なしに日本人をべたぼめしています。あのときの日本人はどこへ行ってしまったんでしょうね。

「ミメイ」さん。次回で書こうと思っていたところですが、海外にあんこはありません。中国と韓国に少しありますが、ほとんど日本であんこは食べられているみたいです。つまり、日本は、世界に冠たるあんこ大国なんですね。

「sola」さん。1枚のピザにジェノベーゼとアンチョビ&オリーブとマルゲリータとペペロンチーノが、4分の1ずつのっているのを見たとき。シャンプーとリンスが一緒になっている洗髪材を見たとき。一本のボールペンの中に黒と赤と青の3種のインクがぎゅうぎゅうに押し込められているのをみたとき。うれしいような哀しいような、そんな気分になるのはぼくだけでしょうか。神戸によろしく。

「おさる」さん。おっしゃるとおり、「無思想」という思想を、世界ではじめて発見したところが、この国の面白さでしね。

「吉ちょむ」さん。たしかに地理的条件が大きな要因になっていたと思います。イギリスも島国ですが、英仏海峡は昔から地続きみたいなもんでしたからね。さて、通信交通手段の発達で、日本も島国でなくなってしまったいま、この国のこれからは、どうなっていくんでしょう。

「ぶらっくびねがー」さん。お久しぶり。日本が男性天国だった時代なんかない、ということを、フロイスの言葉は証明してますね。お互い、それをよろこびとしましょうや。

「gilman」さん。ぼくの血も「メリケン」です。で、O型です。その血と、あんこ色の血が、いつもけんかをしています。あ、たねやの栗まん、次回でごちそうしましょう。
by あまの (2006-02-17 23:40) 

anmomo

風の知らせで、たねやのお菓子が紹介されてるとの事で
覗きに来ました^^
この最中は私も大好きなんですぅ。二つのお味を楽しめるので。。。。
あっ!栗まんも大好きです。
by anmomo (2006-02-18 16:32) 

銀鏡反応

おはようございます。
「無思想」という思想ですか…う~ん。そうなんですよねぇ。まあ、技術でも文化でも、宗教でも、その中の根本的な思想を「無化」して、「無思想」なものに(というか自分達に合わせて)アレンジしちゃうのが日本のよい(?)ところであり、わるいところでもあるんでしょうね。見方を変えれば、それだけ物事に対して、柔軟性があるんだということなんでしょうね。
「無思想」については、60数年前、そのせいで「軍国主義」に引きずられて中国やアメリカと戦争して、結果的に敗北した過去の歴史的事実があるんですよね。
今だ日本が「無思想」のままでいることは、ヘタしたらいつか来た道に戻ってしまうと言う事も考えられます。かといって共産主義国家みたいに、国全体がただ一つの「思想」にがちがちにかたまっちゃって、ほかの思想をうけいれないってのもまた考え物ですしね。
いろんな思想があって、いいんですよ。
でもやっぱり何かもってなくちゃ、とどのつまりは巨大化したものに引きずられる。そんな気がいつもしています。
by 銀鏡反応 (2006-02-19 07:29) 

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