SSブログ

揺れ動くジーパン [あんこ学]

渋谷のリーバイスの店へ行ってみました。カタチも色もとりどりのジーパンが、楽しげに並んでいました。が、破れたダメージ・ジーンズはありませんでした。前回、リーバイスでも売っていると書いたのは、ぼくの早とちりだったようです。リーバイ・ストラウスさん、ごめんなさい。
で、思ったのですが、gilmanさんやtengさんがコメントで言っているように、ジーパンのファッション化(こしあん化)は、ストーンウオッシュやブリーチでわざとクタビレ感を出したり、ジーパンに刺繍をしたり飾りをつけたりしてオアソビ感を演出したり、と、そんなところで、行き止まりになっているのかもしれない。で、ダメージ・ジーンズは、そういうジーパンのファッション化に対する批評的(抵抗的)表現として出てきたのかもしれません。「おれたちはもともとつぶあんなんだ、その本分を忘れてチャラチャラするな!」というわけですね。
そうかもしれない、とぼくも思います。それで思い出したのですが、昔の旧制高校の生徒の間には、「弊衣破帽」(へいいはぼう)というバンカラ風俗が行き渡っていました。バンカラの「バン」は野蛮の「蛮」で、「ハイカラ」をもじったネーミングですね。わざと汚したぼろの服に、わざと破った帽子をかぶり、「われらは、世間の流行風俗など目もくれない高等な人間だ」といった顔で、マチを闊歩していたものです。(ぼくも旧制の松山中学で、同じようなカッコをして調子にのっていましたっけ)。いまのダメージ・ジーンズに、そこまで反社会的な自覚なり意識なりがあるようには思えませんが、ま、少しは共通するところがあるかもしれません。
それはともかく、実用性や合理性をベースに、世の中のこわばった常識を変革しようという意気込みで登場したジーパンが、普及していくにつれて、はじめの変革精神や批評性をうしなっていく。で、どんどんおしゃれ化というか、洗練化の道を歩き始めたということだけは、たしかに言えるのではないかと思います。

ところで、これは、ジーパンに限ったことではありません。世の中のあれこれは、だいたい、「変革⇔洗練」という2極の間の往復運動を繰り返しながらしながら動いていく。で、その場合の「変革」の象徴がつぶあん、「洗練」の象徴がこしあんだと、ぼくは思っているんですね。だから、ジーパンが流行する時代には、あんこでもつぶあん派がふえる。で、男の下着も、トランクス派よりブリーフ派がふえるということになります。
おいおい、ブリーフ派がふえるって本当か、と思う人がいるかもしれませんが、そうなのです。ただしこれは、昔ながらのブリーフじゃない、「ボクサーパンツ」という新顔のブリーフです。男の下着の戦後史を大ざっぱに見ると、
①1950年代 アメリカニズムの波に乗って、ブリーフが台頭。
②1960年代 ブリーフの普及・定着
③1970年代 ブリーフのファッション化
④1980年代 トランクスの台頭と普及
⑤1990年代 ボクサーブリーフの台頭
といった感じで進んできて、最近では、ブリーフ(ボクサーブリーフ・ビキニブリーフ・スタンダードブリーフの合計)がトランクスと激しく競り合うところまで盛り返してきています。(某大学の女子学生・樫山静香さんの調査による)。ホラ、ジーパンと、ちゃんと話が合ってるでしょ。だいたい、ジーパンの下にトランクスをはくと、ジーパンの中がもたもたして困るってこともありますけどね。

さて、と話はあちこちに飛びますが、上方と東京の間も、同じようなことがあるように思います。上方といっても、大阪と京都は大きな違いがあって、いちがいには言えません。ま、京都はこしあんの総本山、大阪はこしあん的なものとつぶあん的なものの混合体、そして東京は基本的にはつぶあん的な色合いが強いと思うのですが、前に言ったトーキョーは擬似こしあんなんですね。そうしたものが複雑にからみあいながら、これまで日本の文化を引っ張ってきた。
ただ、話をわかりやすくするために、上方はこしあん、東京はつぶあんだと言ってしまっても、大きな間違いではないでしょう。その違いは、かなり根深く、しかも象徴的な深さもあって、昔からその違いをめぐる話は、マスコミにいろいろなカタチでとりあげられてきました。とくに、ぼくの読んだもののなかで、すごかったのは、司馬遼太郎さんと山口瞳さんの対談ですね。(司馬遼太郎対談集「日本人を考える」文春文庫)
いや、その面白いのナンのって。ぜんぜんかみ合わない。はじめから終わりまで食い違っている。で、二人とも歩み寄ろうともしない。
 司馬「ぼくは子どものころ、もし東京と戦争が起こったら、おれは肉弾三勇士にでもならなきゃ仕様  がないなと思ってました」(笑)
 山口「それでは、私はショーギ隊となって討死します」
といったぐあいなんですね。
「上方と東京の違いは、牛肉でも大根でも、西のほうはその辺の八百屋で食ってもうまいが、関東は料理屋は別として、素材がなんといってもまずい。可哀想だけど、物の味とか、建物とかは、やはり上方のほうが上じゃないかな」と司馬さんが言えば、「浅草っ子の久保田万太郎の文学碑は、竹馬やいろはにほへとちりぢりに、だそうですけど、このシャレッ気や心意気は好きだなあ。だいたい、大阪には俳句が似合わない」なんて山口さんが言う。ぼくもずいぶん対談をしたり読んだりしてきましたが、こんな対談にならない、それでいてすごく面白い対談ははじめてです。これもお二人が正直だからそうなるわけで、つまり、そのくらい、上方と東京の壁は厚くて、壁につよい養老さんでも手がつけられないくらいだと思います。
でも、だからいいんですね。前にも言いましたが、その二つの間を揺れ動くことで、日本の文化はそれなりに休むことなく動いてきた。それは、こしあんとつぶあんが、それぞれに、ちゃんとしたこしあんとつぶあんだったからであって、その品質がいいかげんだったら、とてもこうはいかなかったと思うんです。

それにしても、です。なぜそんなにあんこにこだわるのか。それも、こしあんとつぶあんの違いにこだわるのか。カフェオレとカフェラテの違いではどうしていけないのか、と思う人がいるかもしれない。で、次回からは、なぜあんこなのか、というモンダイの核心にわけ入っていくことにします。
その前に、伊予でもらったお菓子をどうぞ。お餅をこしあんでくるんだお団子ですが、何かに似てるでしょう。そう、あんこの上のウエーブが赤福にそっくり。で、名前は「福餅」でした。


nice!(0)  コメント(9)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 0

コメント 9

スティッチの親分

ジーパン文化の動き方が分かってきました。
確かに我が家の父はの昔の写真を見ると高下駄に破れた帽子をかぶって反骨精神まっしぐらだったみたいです。
私は反骨精神から破れたジーパンをはいているのではないですが・・笑
私の知り合いもおじさんで、今カフェラテしか置いてないカフェが多いじゃないですか 笑
カフェラテはエスプレッソとミルク。
カフェオーレはコーヒーとミルクで作ってあって私はカフェラテの方が
好きなのですが、そのおじさんはカフェオーレがないカフェでも
「カフェオーレ下さい」と言います。
そしたら店員は「はい、カフェラテですね」と答えるんですが、おじさんは
「僕はカフェオーレにして下さい」とまた言い直します。
店員は「はい。カフェラテですね」と去って行くのですが、店員は何故「うちにはカレオーレは置いてないんですよ」と言わないのか!
これは、おばあちゃんが破れたジーパンとか裏返しに着たトレーナーを注意してくれる逆バージョンで、このおじさんはカフェラテの意味えお説明しても無駄だと思ってるようです。
ここが難しいんです。
おばあちゃんが逆に着てるよ!って注意してくれたら私は「ありがとうございます」と笑顔で言い去って行きます。
これと同じでしょうか・・
それとボクサーパンツですが、形はトランクスのもどきみたいだから
つぶしあんではないでしょうか。
だから、今の時代、こしあんとっつぶあんがごっちゃになってるグチャグチャな時代に突入したんだと思います。
それと天野さんは絶対、破れたジャケット着ていました 爆
これは、こしあん派?つぶあん派?どっち???教えて下さい♪
by スティッチの親分 (2006-02-08 00:43) 

おさる

おはよーございます。コメントご無沙汰いたしております。
スティッチの親分さんの次にコメントが書けるなんて、平日に休むのは素敵ですね。ちょっと得した気分です。はい。
あれ?リーバイスのホームページに行ったらダメージ・ジーンズもありましたよ。ダメージ・ジーンズをはけるのは30代までですかねぇ。30代後半だと「恥ずかしい」というイメージがあります。私は貧乏臭いのが嫌いなのではきませんけど。
司馬遼太郎さんと山口瞳さんの対談ですか?これだけバラバラな事を勝手に話していても対談なんですかね?共通の話題が見えないのですが?テーマは「日本人」でしょうか?興味があったので図書館に予約しました。ネットで予約できるんですよ。便利な世の中です。
「壁」の養老さんよりも「脳みそ」の養老さんに最近は「はまって」います。特に「無思想の発見」が面白いです。つぶあんの世間の人とこしあんの世間の人がいるんでしょうか?つぶあんが現実でこしあんが概念世界なのだとしたらトーキョーがこしあんなのはわかる気もします。
おおおっ!!コメントが長いくせにオチが無い!でし!
今日も良い日でありますように!
by おさる (2006-02-08 09:51) 

銀鏡反応

え?そうなの?やっぱり!リーバイスさんもダメージ・ジーンズ作ってたんですね。マアもっとも、私はもう40代なので、ダメージ・ジーンズは穿けない(というか穿かない)のですが…。
日本文化が、常に“江戸”と“上方”との間を揺れ動いて、それでいて豊かで複雑、かつ繊細なものになったのは、ちゃんとした品質のこしあん的なものとつぶあん的なものとがあったからだという指摘は正しかろうとおもわれます。しかしやはり、近年、品質に難がある「こしあんもどき」「つぶあんもどき」的な文化が台頭してきて、日本文化が本来もっていた繊細で複雑な含みのある美しさがどんどん失われている現状を目にする度に、このままいけば、この国の「美のクオリア」(いけね!また茂木先生の受け売りだっ!)が日本古来の文化の喪失とともに感じられなくなり、私達のあとの世代が、本当の日本文化の美しさを全く知らぬまま大人になってゆく(それはすでに現代的な風景ではありますが)…。それを想像するだけでも空恐ろしくなってまいります。
斯かる事態を防ぐ為に、私達は本当にいまから何とかしなくてはならない。そう感じる次第であります。
by 銀鏡反応 (2006-02-08 20:07) 

gillman

こんばんは
たしかに、変革⇔洗練というサイクルで変わってゆくんですね
そのサイクルの洗礼を受けて残ったものが「様式」とか「伝統」になるんでしょうか
僕も今はブリーフです、ジーンズにトランクスはやっぱりいろいろと差しさわりがあるんですね、
「福餅」美味しそうですね、僕は赤福のあのさっぱりした甘さが好きですね
いよいよあんこの真髄に迫る、ですね
ワクワクします
by gillman (2006-02-08 22:12) 

tami

天野さん今晩は。
今朝のめざましテレビのめざましどっち?あんぱんと言えばこしあんorつぶなん。
結果は、こしあん53.7%つぶあん46.3%でした。
この結果は携帯からの投票だから若い方の意見が多いでしょうね。
それと、この局は地域によっては映らないところも多いから、偏った結果とも言えますね。
NHKか朝日新聞の世論調査の最後位に載せてもらったらいいかもわかりません。

次回のなぜあんこなのか?ついにあんこの核心にせまるわけですね。
次回の内容によっては本格的な世論調査が必要かも知れません!
by tami (2006-02-08 23:22) 

teng

福餅の画像、かなりの破壊力です。
見ただけでこしあんの柔らかさが感じられます。
ツバが湧いてきました。
次回楽しみにしています。
by teng (2006-02-09 13:55) 

銀鏡反応

こんばんは、
また来ました。

福餅の透明感をもったこしあんの美しさ!まさに舌も泣いて喜ぶ味の芸術品ですね。
一度口にして、十分に味わってみたいです。
by 銀鏡反応 (2006-02-10 18:44) 

kadoorie-ave

はじめまして。
最近、いい歳をして貧乏で、新聞をとるのをやめてしまったため、大好きな天野さんのコラムを読むことができず寂しい思いをしていました。
ここに辿り着いて、嬉しくなって書き込みをさせていただきました。
どうぞよろしくお願いいたします。(ちなみに、私は40代半ば。)

しつこくジーンズついてでごめんなさい。
今「オヤジ」(親父、じゃいけないんですよね)たちが70年代ロックを語り、若い子たちも当時のファッションを取り入れたりしていますよね。
70年代のファッションの格好良さというのは、ライフスタイルとぴったり一致していたからだと思うのですが。(だから、表面だけなぞった「ファッション」だけの人は、当時だって格好わるかったでしょうが。)
昔の「とことん穿いて破れてしまった」ジーパンと、今の「ダメージジーンズ」の違いは、やはり清潔感かもしれません。
穿き込んだジーンズ、人によっては垢染みてテラテラしている。場合によっては臭う....。
これでは、今の世の中モテなくなってしまう恐れあり。だからと言って新品ピカピカほつれなしだとこなれた「通っぽさ」がありません。
しかも、ジーパンというのは、高級レストランではドレスコードに引っかかることがあります。
そこで、セレブ流行りの昨今。セレブも穿くというお高いダメージジーンズならどうよ!ということではないかなあと思いました。
「ハリウッドセレブがパーティーに着てくる、通なジーンズなんだぞコレ。清潔な上にこなれた『かんじ』でしょ」というのを穿いていれば、どこに行ってもドギマギせずに済むのかも。「なにが悪いんだよ、この良さがわからないのか〜い?」と。そして、ダメージが入っている妙なエグさを楽しむ....。
それだけに、本当の意味でダメージジーンズを穿きこなし、ジーンズより着ている本人のほうが素敵な印象を残すのは、生易しいことではないのではないでしょうか。

穿いている人を批判する気持ちは全くなく、また何歳からはおかしいとも思いませんが、あれは難しいのにな....と感じています。

ところで、「福餅」何ともいい形をしていますね。柔らかな中にも端正な緊張感があって。
私のお口にお入りなさ〜いと、話しかけたくなります。
by kadoorie-ave (2006-02-11 16:33) 

あまの

「スティッチの親分」さん。「ボクサーパンツ=つぶしあん」とはまた、おみごとなお見立てで。さすが親分、おそれいりやした。(破れたジャケットのない男)

「おさる」さん。養老さんの「無思想の発見」は、「日本の発見」でもありますね。もしかしたら、「あんこの発見」かも。

「銀鏡反応」さん。「もどき」だらけの世の中ですが、まだまだ掘ればいいものが出てくるのでは。「ここ掘れワンワン」やりましょう。

「gilman」さん。たしかにトランクスではジーパンがはきにくい。ボクサーはジーパンの子かもしれませんね。

「tami」さん。アンケート結果についてお骨折りいただき、ありがとうございました。こしあんの気骨ある逆襲がはじまったんでしょうか。でもこの戦いは、なかなか骨だと思いますね。

「teng」さん。「福餅」はそれなりにおいしいのですが、しょせん、「赤福」のもどきです。もどきはどうもね。

「kadoorie-ave」さん。ようこそ。おっしゃるとおり、衣装はライフスタイルの表現ですね。ダメージジーンズを着こなすのは、その点、ほんとうにむずかしいと思います。でも、ちょっと着てみたいと思いませんか。
by あまの (2006-02-13 20:54) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

こしあんの退廃津波列島の特産品 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。