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粋と粋 [あんこ学]

去年亡くなった杉浦日向子さんが、以前、こんなことを言っていました。
「上方の粋と江戸の粋。同じ粋でも、上方は<すい>で江戸は<いき>なんですね。で、上方の粋は、たとえば十二単のように美しいものを上へ上へと重ねていく。それに対して江戸の粋は、余計なものをどんどん脱ぎ捨てていくんです」
とても面白い話で印象に残っているのですが、それはさておき、西日本が文化の中心だった平安時代から、鎌倉、室町、戦国時代を経て江戸期になると、文化の重心が東日本に移っていきます。というか、上方と江戸の2極文化時代になっていくわけですね。
この時代の大きな特長は、文化の担い手が権力者や貴族から大衆の手に移ったことで、江戸時代の300年間は、経済成長もほとんどゼロなら、人口もほとんど変わらないのに、歌舞伎やら浮世絵やら、みごとな大衆文化の花が咲いたことです。ホント、この時代の日本は、世界でもトップクラスの文化大国だったと言っていいでしょうね。それも上から与えられた文化じゃない、大衆が自分たちの手で作り出し、育て上げた文化です。
俳句も、この時代のものです。室町時代の連歌から、俳諧連歌がおこって、それからさらに俳諧が独立して「連句」が生まれていく。もともと、俳諧の「俳」も「諧」も、滑稽とか洒落というイミですから、それは和歌のように大まじめじゃない、ことば遊びの要素が強いんです。だからこそ、大衆の間にも浸透していくわけで、軽妙洒脱なものから駄洒落づくしのものまで、初期の俳諧はつぶあん的なエネルギーに満ちていました。
その俳諧に、室町時代の「幽玄」に通じるものを呼び覚ましたのが「古池屋」の芭蕉さんですが、この人は、まさに俳句界の元祖こしあん本舗と言っていいでしょう。
  梅が香にのっと日のでる山路かな
  五月雨(さみだれ)をあつめてはやし最上川
  むざんやな甲(かぶと)の下のきりぎりす
みごとですね、ことばのこの漉しぐあい。17音のなかに、何百粒ものことばが漉されている。これを「粋」と言わずになんというか。でもね、ホントのことを言うと、ぼくは芭蕉さんはご立派すぎて、もうひとつ近寄りがたい。やっぱりぼくは、一茶さんが肌にあうんです。で、とりあえずきょうは、一茶さんの句だけ、いくつかご紹介しておきます。さて、これは何あんか。
  うまそうな雪がふうわりふわりかな
  思う人のそばへ割込むこたつかな
  年よりや月を見るにもナムアミダ
  あの月をとってくれろと泣く子かな
  雪とけて村いっぱいの子どもかな

きょうのおもてなしは、四国松山銘菓「薄墨羊羹」です。これ、うまいぞなもし。

   


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スティッチの親分

おっ!一番のりかな♪やっほぉ~!!
また天野さんが歴史の先生になってる(笑)よっ!待ってましたぁ~♪
こんなアホアホ星人のコメントみなさん、すいません。
上方の粋と江戸の粋の違い!よく分かりました♪
江戸の粋はどんどんと余計なものを脱ぎ捨てていき、裸になり熱いお風呂にはいっても「江戸っ子でぇ~い!」って痩せ我慢をする江戸っ子の粋な感じもよく分かります。
なんで江戸っ子は素直じゃないんでしょう(笑)
天野さんも江戸っ子ですよね。やせ我慢しちゃいますか?
あまのじゃくですもんね(爆)
江戸っ子の粋さがまだ西日本出身者の私には理解が出来ない
(キ▼д▼;)トホホ・・
歌舞伎やら浮世絵やら、みごとな大衆文化の花が咲いた江戸時代。
素敵だったでしょうねぇ~
今の日本は大衆が創りあげてる文化ではなくテレビなどで踊らされてる大衆文化。これって軽くやばいどころか、真剣にやばいって考え直さないと、どうなって行くんでしょう。日本って。
俳諧って滑稽とか洒落というイミ
by スティッチの親分 (2006-01-14 13:04) 

NO NAME

ヤバ!送信してしまった。
続き~(笑)
だったんですね!
私は、俳句の人達に迷惑がかかると思って、くそマジメに考えても俳句が作れなかったオバカ人間です。そーかー!言葉遊びで作っていいんだぁ~♪
早く教えて欲しかった。高校&中学の先生!うらみます!!
うまそうな雪がふうわりふわりかな
  思う人のそばへ割込むこたつかな
  年よりや月を見るにもナムアミダ
  あの月をとってくれろと泣く子かな
  雪とけて村いっぱいの子どもかな
一茶さんの俳句に、ナムナム~
天野先生にナムナム~♪
またまた勉強になりました♪
最後に、私も大好きだった杉浦日向子さんにナムナム~
天国で天野さんの事、応援してることでしょう!
また長々とすみません!許して!!
by NO NAME (2006-01-14 13:10) 

スティッチの親分

↑のコメント。私でした~
by スティッチの親分 (2006-01-14 13:12) 

tama

はじめてコメントしてみます。
定番の薄墨羊羹ですね。小さいときには苦手だった羊羹も、今や熱い緑茶と一緒にいただけます。(まだ22ですが、緑茶は譲れない)
同じく小さいときには苦手だった柚子あんも今はいけます。
関東の大学に進み、一人暮らしを始めてから尚のこと地元名産は恋しい・美味しい・楽しみなのです。
俳句話すら触れてませんがご容赦を。懲りずにまたコメントします。

(昨年2月、松山便の飛行機で天野さんの横に座ってたのに何も話しかけられなかった)tamaより
(↑家族からはなんと勿体ないと言われ云々)
by tama (2006-01-14 14:59) 

銀鏡反応

あまのさん、こんにちは。
先日は拙い詩作にコメントいただきありがとうございました。
つぶあんの俳諧を綺麗にこすとこしあんの芭蕉になるんですね。そして、またつぶあんの一茶にもどって、やがては子規の短歌に繋がってゆくんですね。
ところで、あん、ってこしあん、つぶあんでおなじみの黒あずきのあんのほかにも、みそあん、黒砂糖あん、白あずきあんなど、いろいろあるらしいですね。
by 銀鏡反応 (2006-01-14 15:58) 

sola

俳句は、最適最短の言葉に思いがいっぱい詰まっているようで、手をかけて無駄を取っ払ったこしあんの趣といった感じがいたします。
つぶあんは素朴な味わいの川柳でしょうか。。私にも作れそうな予感。つぶあん作りは得意です!(笑)
五月雨を……
お隣の県ですが、家から日帰りで行かれる距離に最上川はあります。水量の豊かな綺麗な川を眺めると決まってこの句が浮かびます。「これ誰の句だっけ?」と相方に聞いたりして(笑)。お互い、芭蕉さんもこの句も知っているのに、線でつながらない……まったくもって頼りない知識人二人。まぁこの程度でも、生活上特に不自由はありませんけど(笑)
しかし美味しいものはそうはいきません。「薄墨羊羹」は携帯にメモりました。デパートへ行った折にでも~。。
by sola (2006-01-15 17:04) 

わかば

 私も初めてコメントします、松山在住のわかばです。
 一茶さんの句って、今の私たちでも本当にわかりやすいですね。思わず「ある、ある、ある~」って言いたくなります。
  うまそうな雪がふうわりふわりかな
 雪が降ると、思わず口を開けて上を向いてしまうのは私だけでしょうか…「ふうわりふわり」って感じもいい感じ!!
他の句も全部、絵に描けそうなほど分かりやすい。絵本ができそうですね!一茶さんの句って、 「痩せ蛙」とか「雀の子」とか教科書に載っている句しか知りませんでした…。
 それにしても俳句ってすごいですよね!江戸時代に詠んだ句が古語辞典とかがなくても読めるんですから。(って、バカなこと言ってますか…)
 一茶さんの俳句、もっともっと読んでみたくなりました!薄墨羊羹と熱くて渋いお茶をお供に…買いに行かねば!!
by わかば (2006-01-16 03:19) 

sola

甘かった……
お昼休みに、デパ地下をウロウロ。薄隅羊羹はありませんでした。思わず心の中で「なんでもかんでもあると思うなよな」とつぶやきました(笑。
胡瓜を、冬に食べることができる時代に違和感を感じながらも、いながらにして欲しいものが手に入ることは便利に利用してたりして。
そこへ行かなければ得られないからこそ、旅行が楽しかったり、お土産が嬉しかったりするのですよね。
しかし、ないとなるとますます食べたくなるものですねぇ……(笑
行かれる日を楽しみにいたしま~す。。
by sola (2006-01-16 14:29) 

gillman

天野さんのおっしゃるように日本文化といっても幅が広いですよね
西と東ではかなりテイストも違うものがありますね
その幅の広さが日本文化を豊かにしているという点もあると思います
個人的には僕は可能なかぎり色々なものを削ぎ落とし極限までシンプルにしたものが好きですね
西陣織よりも江戸小紋
伊万里よりも織部
ですか
意匠の底流に流れている、シンプルなものが本当は贅沢なんだと言う精神が好きですね
by gillman (2006-01-16 22:16) 

あまの

「スティッチの親分」。いまは大衆がつくりだす文化じゃなくて、テレビに大衆が踊らされる文化。さすが親分、スルドイですね。でも、あわてないで、ゆっくりコメントしてください。

「tama」さん。ようこそ。行き当たりばったりのバカ話大会ですから、思ったままに感想を寄せてくれるとうれしい。一緒にあそびましょう。

「銀鏡反応」さん。「一茶はつぶあん」ときましたか。うーむ、先手を打たれたので、べつのこたえを考えときます。

「sola」さん。最上川がすぐそこだなんて、うらやましい。「さみだれや大河を前に家2軒」。これは蕪村ですが、こちらは最上川かどうかは知りません。でも、明らかに芭蕉の句を意識してますね。で、芭蕉の句をこえてるような気がする。あしたから松山です。

「わかば」さん。「寝ころんで蝶とまらせる外湯かな」。道後でよんだ一茶の句です。道後の子規記念館の前に句碑があります。大好きな句です。気がむいたら、ちょいちょい来てくださいね。ここにも。子規記念館
にも。

「gillman」さん。極限までそぎ落とすと「空」になる。おっしゃるとおり、おもしろいですね、この国の文化は。
by あまの (2006-01-17 01:51) 

anmomo

ご無沙汰してます。今年も天野さんの記事楽しみに拝見させて頂いております。今回はですね。思わず「ステッィチの親分」のコメントに惹かれて書き込みしました^^
江戸の粋と上方の粋の違い何んとなくですがわかります。
どうして江戸っ子って言われる方は「そこまで我慢しまくても・・・・」って思ってしまうほど我慢しますよね?それが「江戸の粋」と言うものなんでしょうか??今でもそんな方がいらっしゃるのでしょうか?
すいません。不勉強なので。。。。。。。

◎ふわふわの雪=こしあん◎わりこむこたつ=つぶあん
◎年寄りや=つぶあん◎あのつき=つぶあん
◎雪溶けて=こしあん
こんな感じて私なりに分けて見ました^^
如何でしょう??
by anmomo (2006-01-18 16:23) 

あまの

「anmomo」さん。はい、いまでもそんなおっちょこちょいの江戸っ子はいます。ぼくです。
by あまの (2006-01-20 11:31) 

桜井

はじめまして、です。

西の『粋~すい』と江戸の『粋~いき』。
個人的には江戸の粋の方がしっくりきます。

さてここで疑問。
以前、とある牛丼チェーンが「『粋』な接客を」といった広告のポスターを貼っていたんです。
『粋』ってのは何なんでしょう。

亡くなった杉浦日向子さんの対談集の中で、作家の北方謙三さんがこんな風に『粋』について言われた経験があると話をしていました。
「粋がるんじゃあねぇ、粋てぇのは帰りがねぇんだ」

理解、ではないですが、なにか腹の底にふっと届いた気がしました。
乱文失礼しました。
こしあんとつぶ(し)餡について書きたいので別のトラックバックに書きます。

大変面白いブログを偶然にも発見したので、ちょくちょく見に来ます!
by 桜井 (2006-04-17 00:14) 

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