SSブログ

大統領のゴスペル [ことばの元気学]

1ゴスペル.jpg

夜中の2時にオバマさんの演説を聞きました。
その感想は、朝日新聞の「CM天気図」に書いたので、よかったら見てください。(来週火曜日・27日掲載)
ただ、スペースの関係でそこには書けなかったことがあります。
それは、オバマさんの演説の音楽性についてです。

この人の演説には「音楽」がある。
彼の演説を最初に聞いたとき、直感的に感じたのは、そういうことでした。
彼が黒人の血をひいているということもあって、なんというか、「ゴスペル」のような空気が、演説の通奏低音のように流れている感じがしたんですね。

といっても、ぼくはゴスペルが特に好きとか、ゴスペルに強いとか、そんなことはまったくない。
昔からマヘリア・ジャクソンやアレサ・フランクリンが人なみに好きという、その程度のゴスペルファンです。
それでも、その音楽には、「助けてくれ!」と叫んでいる切実さがあるところに、とても惹かれる。「“表現”とは助けてくれと叫ぶ行為だ」と言ったのはたしか大江健三郎さんですが、そういう意味でのすばらしい「表現性」があるように思うのです。
もともと"expression"(表現)というのは、たとえばミカンをギュッと押しつぶした時に、中からたまらずに汁が飛び出してくるような状態を言うらしいのですが、まさに外界からのさまざまな圧力に押しつぶされそうになった人間の内部から、本能的に飛び出してくるもの、それが表現という人間的行為であり、ゴスペルはその典型的な例と言っていいんじゃないでしょうか。

ちなみに、「ゴスペル」というのは、「福音」という意味ですね。「いいお知らせ」のこと、「グッド・ニュース」ということです。オバマさんの大統領就任演説は、多くの人びとにとって、「グッド・ニュース」に満ちていました。とりわけ、ブッシュさんに絶望していた人たちにとっては、なによりの「福音」でした。
その演説のバックに、ゴスペルの響きを聞いたような気がしたのは、彼の言葉の修辞的な力や、彼の語りの音楽的な力によるものでしょうか。それとも、彼が黒人の血を引く人であることから、こっちが勝手にそう感じてしまっただけのことでしょうか。

まるで「救世主」のように期待されてしまって、オバマさんもたいへんでしょうが、なんとかうまくやってほしいなあと思います。そう、20世紀の亡霊退治を、しっかりやってね。

nice!(3)  コメント(16) 
共通テーマ:アート

nice! 3

コメント 16

銀鏡反応

20世紀の亡霊退治…というよりも百鬼退治ですね。オバマさんが取り組む難題は、おそらく百鬼の数よりも、天文学的に山積していると思われますが、本当に頑張って欲しいものです。

ところで、日本の政治家たちの演説を聞くと、心に響く音楽性というよりは、聞くものの心が離れてしまいそうな「杓子定規」的詰まらなさを感じてしまいますね…。

そのような政治家には、20世紀の亡霊・百鬼退治は難しいでしょうね。
by 銀鏡反応 (2009-01-23 05:40) 

gillman

 僕も聴きました。マーチン・ルーサー・キング牧師のリズムと共通するものがありますね。彼の演説を聞いていると政治家の武器とは理想と言葉の力だと感じます。
 日本の政治家の演説を聞いていると暗澹たる気持ちになりますが、一つには今の日本語の構造が一対一で話しやすい構造になっており、大衆に演説するスタイルが確立されていないこともあると思います。
 英語のチャーチルやケネディやキング牧師のような名演説家が一人でも出てスタイルを示せば日本の政治家の言葉にも羽が生えると思うのですが。
by gillman (2009-01-23 07:18) 

いっこさん

私も同じような印象を受けました。
キング牧師のI Have a Dream.のスピーチを想起させ、ゴスペルを聞いたときのような感動を覚えました。
by いっこさん (2009-01-23 15:32) 

kurikuri.king

はじめまして。私も同じような事を感じました。

ゴスペルを歌う黒人のバックグラウンドが持つ言葉の深みと、オバマ大統領の生立ち、そして人種を超えたオバマ自身の言葉の重み、これが人々を共鳴させると言う点で共通しているのではないでしょうか。

ゴスペルはキリストの信仰を歌うものですが、キリスト教で無い我々にも、音と言葉で伝わるものが有ります。

ゴスペルの様に、人間性と言う意味で深さを持った政治家が日本に現れるのは、この先何十年後なんでしょうかね。
by kurikuri.king (2009-01-24 03:09) 

あかみどり

We can change!
演説でこそ使われなかったものの、あのフレーズなんて
拙い英語力のボクでさえ、日本語で訳さずに直接伝わって
くるように感じました。
Weで、canで、change!
日本語でいうなら五七五みたいなリズム感。
なるほど、ゴスペルのようなというのもうなずけます。
演説というよりも説教のようですものね。
福音という天野さんの補足と写真の”GOSPEL”という綴りを
見ていたら、GOD(神)+SPELL(まじない)が転じたのかな、
と思いました。

ところで、麻生首相は声だけでいうなら浪曲とかに
聞こえるんだよなあ。
by あかみどり (2009-01-24 09:56) 

とくさん

演説、考え抜いた内容でしたね。
厳しい内容ですが、V字回復への一歩目、
ここでは、この内容、と、戦略的に、、、・。

「やっぱり、横綱はつよくなくっちゃ!」
「さっぱり、首相はつよくなくなっちゃった!。」
by とくさん (2009-01-26 06:54) 

rio

こんにちは。

日本やアメリカではあまり大きく報道されていませんが、オバマ大統領の選挙公約のひとつは、「対テロのアフガン戦線拡大」ですよね。この点に関しては、ブッシュ政権をそのまま引き継いでいます。

先日、さっそくパキスタン国内のテロ組織への無人機爆撃を命じ、子どもも含む民間人が巻き添えになって死亡しました。

アメリカはモンロー主義を捨てて以来、つねに、他国で戦争を起こすことで自国の不況を乗り越えてきましたよね。オバマ大統領もまた、その枠組みから出ることは決してないのだろうと思います。

むしろ、黒人であるがゆえに、これまでの大統領以上に「アメリカ的」であろうとするかもしれません。
by rio (2009-01-26 10:13) 

シギー

私もテレビでオバマ新大統領の演説、アレサ・フランクリン
の歌を感動しながら聴きました。天野さんのゴズペルと「Exression」
の話題を読んでモダン・ジャズ、Tenor Sax の巨人である
John Coltrane のことを彷彿しました。彼は幼少の頃から
ゴスペルに影響されたようです。最晩年の1967年
の演奏のアルバムはタイトルが「Expression」
で同名の曲が入っています。フリー・ジャズの
スタイルなので分りにくいです。1963年には
アラバマ州で黒人の権利拡大運動への警告で
爆弾を教会にしかけたようです。黒人少女4名
が亡くなったようです。コルトレーンの哀悼の曲
「アラバマ」が美しいメロディーで心にしみります。
助けてくれ!の話がなるほどと思います。
オバマ氏の大統領就任の背景には色々と
あると推測しますが率直に変化を
期待します。
by シギー (2009-01-26 12:19) 

にーな

本当にそのとおり、ゴスペルだったなと、思います。

オバマさんのキャンペーン演説を最初に聞いたとき、
やはり牧師さんのような話し方に、びっくりしました。
それがこの就任演説のときには、とても穏やかな話し方で、
その翌日ラジオで娘さんから、初の黒人大統領ということで
ちょっとしたプレッシャーがあった…とのニュースを聞いたせいか、一家の主として威厳と尊敬をもって
息子娘たちに諭すようにも見えて好感がもてました。
次の世代に、アメリカという家庭の主としての責任を背負って。
聖書に手を置いての宣誓。
これには少しばかり亡霊に邪魔をされてようでしたね。
アメリカの民衆は十字架に彼を引き上げたのか、
それともこの日から大勢の目から、うろこのようなものが落ち
立ち返る時になるのか。

背負った嘆きの重さと深さを知る大人だからこそ、
成しえることがあると思いました。
by にーな (2009-01-26 16:41) 

珠

はじめまして。実際にはお目にかかったことがありますが…。
こんなに面白いブログがあったのを、今まで気付かなくって、遡って拝見するのが楽しみです。

オバマ氏の大統領就任演説は、中身としては地味でぶち上げてない分、これからが大変なんだろうなぁ、パンとサーカスを期待しないで、地道に支える市民が多いといいな、と思いながら聞いていました。
by 珠 (2009-01-27 00:19) 

リック

同様の感想が多いようですが、オバマさんの大統領就任演説は「演説」というより、牧師の説教を聞いてるような気になりました。。。

あの広場に集まった人たちの目は大統領を見つめる目ではなく、まさに「救世主」を見つめているようでしたね。今にも「エイメン」という合いの手が聞こえてきそうでした。
by リック (2009-01-28 11:56) 

推理と投資

オバマフィーバーはまだまだ続きそうですね。
彼が当選したのは世界的にも注目を集めましたもんね。

今までの大統領より親近感を持っている方も
多いようですからね♪

これからの彼の行動には、世界中が
かなりの注目をするんでしょうね。
by 推理と投資 (2009-01-28 15:19) 

けいじ

僕も夜中に聞いていました。
オバマ大統領の就任演説の中の、
「アメリカはまだ若い(We remain a young nation)」
という言葉を耳にした時、「アメリカって若いの?」とちょっとびっくりしました。

僕はもうアメリカも日本も若くないし、かつての若さをとりもどそうとするべきでもないと思います。
けれどこれは、たとえば連日徹夜してガンガン仕事をする、ということが
似つかわしくないということで、
これからは定年退職をした人が
「俺の人生まだまだこれからだぞ」と言って新しいことに挑戦するような
若さが必要なのだ、ということをオバマ大統領の演説を聞いて考えました。
by けいじ (2009-01-28 22:55) 

コナ

しっかしこれでオバマさん、転けたら大変ですねぇ><
アメリカ国民だけでなく、今は世界中の期待をその背に受けて
いるんでしょうね。
by コナ (2009-01-29 17:45) 

yuuto

アメリカのオバマ大統領就任式が
どの報道番組もトップニュースで特別枠扱い。

深夜に就任式を生中継。

大統領選挙の時も各局とも朝っぱらから報道特番一色。

じゃ、日本のトップが決まるって時に
どこかの国が特番すんのかな?
絶対にないな(笑)

ったく、人んとこの心配より自分んとこの心配しろよって感じ。
国内のニュースが全く無いってんなら分かるけど。
本当は伝えなアカンことが山ほどあると思うよメディアさん。


まぁ政治の世界もいろんな団体の世界も
世間の中でもそうやけど、誰がどうだとかこうだとか...
そんなことよりも自分の心配してみろっての!


昔に比べて、自分で勝負しなくなった日本の国、そして日本人。
群れないと何もできないようなヤツも多いしね。
自分の言葉でしゃべってみろっての。
麻生総理も官僚が作った作文を読んで国民に伝えてる気になってる。

これもある意味、能天気。

相手の顔を見て、自分のキモチを伝えようとすること。
これ基本!非常に簡単なことやと思うけどね。
子供の時に教えてもらったと思うけど(笑)

国のトップなら、一度くらい国民に夢を語ってみろよ。
大人が夢を語ってやって子供は育つんやと思うよ。

それに...

派遣で切られて食っていけないのなら
食ってくためになんでもしなきゃいけないのに
仕事をより好みしてる人が多い。

それもある意味、能天気。
by yuuto (2009-01-30 13:19) 

あまの

「銀鏡反応」さん。
百鬼の中には、いまの日本の政治家もたくさん含まれています。

「gillman」さん。
高校や大学の弁論部って、何をやってるんでしょうね。

「いっこさん」さん。
本当に言いたいことがあるかないか、の違いでしょうね。

「kurikuri.king」さん。
あれはいつだったか、集会で基地反対を訴えた沖縄の少女のスピーチが忘れられません。

「あかみどり」さん。
たしかに、悪い意味でのナニワブシですね。

「とくさん」さん。
言葉に対する誠実さの問題ですね、結局は。

「rio」さん。
たしかに。手放しでは。でも、期待するしかないですね、いまは。

「シギー」さん。
コルトレーンはいいですね。好きです。

「にーな」さん。
次はアメリカの国民が、ためされるときですね。

「珠」さん。
同感です。オバマさんより、アメリカの人たちにがんばってほしいと、ぼくも思いました。

「リック」さん。
政治広告と宗教広告では、「現世」と「来世」の違いはありますが、「救い」や「安心」を売るという点では、同じなんですね。

「推理と投資」さん。
一過性の熱で終わらないでしょう、たぶん。アメリカにとっては、彼は最後の切り札って感じがします。

「けいじ」さん。
よその国の人間まで考えさせるって、すごいことですね。

「コナ」さん。
ほんと、こけたらたいへんです。こけるのは、アソーさんだけでいい。

「yuuto」さん。
ごもっとも。次は日本の番ですね。















by あまの (2009-01-31 19:05) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

身の丈サイズのことば最後の切り札 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。