ひまつぶし [ことばの元気学]
四国松山の友人から電話があって、講演を頼まれた。
経営者の集まりで、「観光資源としての地元文化の育成」について、一時間ほど話してほしいという。
昔からの友人なので引き受けることにしたのだが、どうもテーマがむずかしい。
「文化は金になるか、という演題なら話せるかもしれないなあ」と言ったら、
「それは、えげつないというか、ミもフタもないぞな」
と、電話の向こうの顔が困惑している。
「でもなあ、きれいごとの言葉は、もう届かないよ」
「それはわかるけど」
「企業の文化支援だって、結局は、自分の利益になるかどうかだろう。へんにカッコつけるより、はっきりそう言ったほうがいいんだよ。利益をあげて悪いことはないんだから」
「わかった。それでええわい」
ということで、話はついたのだが、でもなあ、何をどう話せばいいのか、まだ見当がつかない。
そうだなあ、まず、「文化ってナンだ」っていうことからいこうか。
「文化」っていうと、なんかご立派そうなものみたいに思う人が多いんだよな。
「文化人」なんていうと、偉い人みたいじゃない?
「文化講演会」なんていうと、ありがたい話みたいに思ったり。
でも、「文化」って、「ひまつぶし」のことだと、ぼくは思う。
そう、ひまつぶし。
だいたい、「ひま」なんていうものを持ってるのは、人間だけだよね。
蟻や雀なんか、一日中、いそがしくて、ひまなんかありゃしない。
だから、蟻が文化会館つくって歌謡コンクールやってたなんて話は、聞いたこともない。
ほんと、いそがしいんだ、人間以外の動物たちは。
眠っているときと食べているときと排便しているとき以外は、生きるための食糧を獲得するために、一日中せっせと働いているんだから。
(家で飼ってる犬や猫は、ひまをもてあましてるけど、あれはまあ、人間のうちだからね)
ではなぜ、人間だけが、「ひま」という不思議な時間を手に入れたか。
それは何万年前かに、「ことば」というものを拾ったおかげだね。
「ことば」を持ったおかげで、人間は分業という共同作業ができるようになった。
そのために、作業の効率が飛躍的に向上した。
バラバラにやっていると10時間かかっていたことが、分業でやると5時間でできるようになった。
つまり、5時間あまった。で、そのあまった時間を「ひま」と呼ぶことにした。
が、その「ひま」をどう使うか。「ひま」は食べ物のように保存がきかない。賞味期限は「いま」である。
「さあ、どうする?」というところから、文化ははじまったのだ、たぶん。
いいぞ、いいぞ。こうやって「ひまつぶし」をしていたら、話すことが見えてきたじゃないか。
おっとっと、愛ちゃんの中継がはじまる。
つづきはまたにして、テレビ見なくっちゃ。ひまつぶし、ひまつぶし。
経営者の集まりで、「観光資源としての地元文化の育成」について、一時間ほど話してほしいという。
昔からの友人なので引き受けることにしたのだが、どうもテーマがむずかしい。
「文化は金になるか、という演題なら話せるかもしれないなあ」と言ったら、
「それは、えげつないというか、ミもフタもないぞな」
と、電話の向こうの顔が困惑している。
「でもなあ、きれいごとの言葉は、もう届かないよ」
「それはわかるけど」
「企業の文化支援だって、結局は、自分の利益になるかどうかだろう。へんにカッコつけるより、はっきりそう言ったほうがいいんだよ。利益をあげて悪いことはないんだから」
「わかった。それでええわい」
ということで、話はついたのだが、でもなあ、何をどう話せばいいのか、まだ見当がつかない。
そうだなあ、まず、「文化ってナンだ」っていうことからいこうか。
「文化」っていうと、なんかご立派そうなものみたいに思う人が多いんだよな。
「文化人」なんていうと、偉い人みたいじゃない?
「文化講演会」なんていうと、ありがたい話みたいに思ったり。
でも、「文化」って、「ひまつぶし」のことだと、ぼくは思う。
そう、ひまつぶし。
だいたい、「ひま」なんていうものを持ってるのは、人間だけだよね。
蟻や雀なんか、一日中、いそがしくて、ひまなんかありゃしない。
だから、蟻が文化会館つくって歌謡コンクールやってたなんて話は、聞いたこともない。
ほんと、いそがしいんだ、人間以外の動物たちは。
眠っているときと食べているときと排便しているとき以外は、生きるための食糧を獲得するために、一日中せっせと働いているんだから。
(家で飼ってる犬や猫は、ひまをもてあましてるけど、あれはまあ、人間のうちだからね)
ではなぜ、人間だけが、「ひま」という不思議な時間を手に入れたか。
それは何万年前かに、「ことば」というものを拾ったおかげだね。
「ことば」を持ったおかげで、人間は分業という共同作業ができるようになった。
そのために、作業の効率が飛躍的に向上した。
バラバラにやっていると10時間かかっていたことが、分業でやると5時間でできるようになった。
つまり、5時間あまった。で、そのあまった時間を「ひま」と呼ぶことにした。
が、その「ひま」をどう使うか。「ひま」は食べ物のように保存がきかない。賞味期限は「いま」である。
「さあ、どうする?」というところから、文化ははじまったのだ、たぶん。
いいぞ、いいぞ。こうやって「ひまつぶし」をしていたら、話すことが見えてきたじゃないか。
おっとっと、愛ちゃんの中継がはじまる。
つづきはまたにして、テレビ見なくっちゃ。ひまつぶし、ひまつぶし。
人生とは、大いなる「ひまつぶし」ではなかろうかと思います。
何が文化か、私ごときには分かりませんが、疲れたりへこんだりしても、毎日何かしら楽しいこと、面白いことを見つけて、遊ぶ。
この年になると、しなければいけないことを先にすると、力尽きてしまうので、先に遊ぶようにしています。当然稼ぎは減ります。それでも遊んだだけ得、と思ってしまうのです。
遊びが稼ぎにつながるような仕事に就けるといいのですが、稼ぎになったとたんに、遊びではなくなってしまって、バランスが難しいです。
by anan (2008-08-21 18:31)
文化ーひまつぶし なるほどと納得しています。
学生時代、若い頃によくジャズ喫茶に浸り
暇つぶししていました。スイングジャーナルなどの
本を読んで文化とコーヒを味わっていました。
店の雰囲気、店名、マッチの絵柄など個性的な文化と
タバコの香りを楽しんでいました。
文化ー金になるかーーー ユダヤ人の経営者は文化である音楽、絵画、映画など芸術をビジネスとして発展させてますよね。
最近はどうも香川県の讃岐饂飩、高知のよさこい
踊りなどと同じ四国でも愛媛がPR不足の
感じです。数年前に「セカチュー、世界の中心で、愛をさけぶ」を宇和島が舞台でなくて香川県の庵治町に決まったときに
アピール不足ではないかと残念に思ったことがありました。
今までのややワン・パータンな松山
のイメージから来年のNHKドラマ「坂の上の雲」で
幅が広がるのを期待しています。誇れる道後温泉
とミカンの他にまた何かを全国に知って欲しいですね。
天野様の東京からみた松山への激励を
お願いします。
by シギー (2008-08-22 16:04)
こんにちは。
テレビで見たのですが、野生の動物には「遊び」がないのに、動物園の動物は、いろんな遊びを開発するようですね。棒をふりまわしたり、石を投げたり、木のカケラを狭いところに押し込んだり、パターンはいろいろだそうです。
自由と引き換えにエサと安全を保証される生活。そこから文化が生まれる。なんかこんな言い方をしたら友達をなくしそうですが(笑)
さて。文化住宅でひとり暮らしの私は、これから、文化包丁と文化鍋を使って晩御飯を作ります。それでは。
by rio (2008-08-22 19:56)
少し前、公民の授業で習ったことが真っ先に思いつきました。
「健康で文化的な、最低限度の生活」
憲法の25条ですね。
そのことばを習い、具体例を学んでからはこのことばが私のことを縛っています。ゆるく縛られて気持ちが悪い。
私は将来、「健康で文化的な最低限度の生活」ができるようにならなきゃいけないな。と思い、それ以来、お金があって、文化力のある中流の家庭を作らなければという強迫観念が生まれました。
でも天野さん、「文化って暇つぶしだ」っておっしゃるから、きっと「健康で文化的な生活」っていうのは、暇があって、それをつぶすだけの体力と気持ちの余裕があることかな、と思えて、なんだか楽になりました。
難しいことば使うから、わかんなくなっちゃうんですね。
by 発電藷 (2008-08-22 21:38)
こんばんわ。
残暑と言いながら急に涼しくなって、
体調を崩されたりはされていませんか。
ちょうど僕が最近読んでいた、
立川談志師匠の本で、
師匠も人生はひまつぶしだと仰っていました。
そう考えると、
ひまつぶしは、粋なもんですよね。
同じく別のところで、
「いい好奇心を文明といい、悪い好奇心を犯罪と呼ぶ。」
とも仰っていました。
何でひまをつぶそうとするか、
その発端がどういうものかで、
もたらされる結果が大きく違うのが、
ひまつぶしの持つ恐ろしさなのかもしれないですよね。
by チンゲン (2008-08-22 23:28)
そうですね、
資本主義社会が、高度になると、
すべての人が、食べるために働かなくても、
よくなるんじゃないかと
ひそかに思ってましたし、
今も思ってます。。。マルクスじゃありませんが、、、。
みんなが、「ひま」を享受できるように!
貴族の文化じゃなく、庶民の文化が栄えるといいな!
by とくさん (2008-08-23 00:39)
サザエさんのマンガで、こんな話がありました。
波平がカツオとワカメの前で
「きょうは文化の日だ、おまえたちはわかるか?」
「文化とはなんぞや!」
と言って窓を開けたがすぐに閉めてしまった。
窓の外ではツギのあるおじさんが肥桶をかつぎながら歩いていた。
(昭和34年11月3日)
波平さんは窓を閉めてしまいましたが、肥桶をかついだおじさんが
歩いている風景だって、その時代の文化の表れだと思います。
僕はそんな風景どころか肥桶すら見たこともありません。
また、朝日新聞土曜beの『サザエさんをさがして』で
「育児書」が取り上げられた時の見出しの言葉、
「文化に科学が加わった」は強く印象に残っています。
(平成17年2月26日)
文化というといまいちピンとこなくなりますが、
食べ物も子育ても娯楽もみんな「文化」なのだと思います。
by けいじ (2008-08-23 18:19)
そう言えば「ひまつぶし」って独創的だと思います。何かを発見して、「これでひまをつぶそう」とそのつど自分で決めるからです。
文化にはオリジナリティがあると思うので、その祖先は「ひまつぶし」?でしょうか。
あと、それで思いついたのですが、
ソフトボール日本代表の上野投手は、体のバランスを整えるために利き腕じゃない左手でご飯を食べていたそうです。テレビで見ました。でも、意外と最初は楽しかったんじゃないでしょうか。
by ぜんそく (2008-08-23 20:31)
孫引きですが、アリはあんな風にせわしく動き回っていても、
実はデタラメで(たまたま)食べ物に出くわしたらそれを口にくわえて
一目散に巣に帰る、という行動を日々繰り返しているのだそうです。
他にも働かないアリもかなりの割合でいるとか、そんなデタラメだったり、良い加減なところはヒトの世界でもそう違わないなあ、と思います。
大人の遊び、というとヘンな感じですが、そんなデタラメで良い加減な
子供のように無心で遊ぶ大人たちがその粋な遊びやひまつぶしを
照れ隠しで格好つけて”文化”と呼ぶのでしょうね。
by あかみどり (2008-08-24 10:43)
「anan」さん。
遊びで稼ぐのは、やっぱり邪道ですね。パチンコで稼いでいる友人は、いつも暗い顔をしています。
「シギー」さん。
魚はうまいし、温泉はあるし、松山にいると、気分がぬくぬくしてきますね。松山のキャッチフレーズは、「ぬくぬく松山」というのがいい。市役所の人にそう言ったら、怒られました。いいと思うんだけどなあ。
「rio」さん。
動物園にいる動物って不思議なものですが、動物園に行く動物(にんげん)というのは、もっと不思議な気がします。動物園の動物たちは、オリの中から、人間を不思議な思いで見ているんでしょうね。
「発電藷」さん。
豊かさを測るモノサシは「カネ」と「ヒマ」だそうで。いくらカネがあっても、ヒマがない生活は、文化的とは言えないようです。と言って、その逆も困る。バランスがむずかしいですね。
「チンゲン斎」さん。
ほんと、猛暑でした。クーラーでせっせとCO2を生産しながら、地球温暖化の危機を憂える日々を送っています。
「とくさん」さん。
カネを追いかけるよりヒマを追いかける人のほうが多くなる、そんな日がやってくるのを待ちましょう。
「けいじ」さん。
野生の大根は文化じゃありませんが、大根を栽培して、収穫して、食べるのは、広義の文化(way of life)ですね。モノを食べること自体を文化とは言いませんが、食べるための知恵や作法は文化だと思います。で、芸術や芸能もまた、生活を楽しむための知恵であり、作法です。
「ぜんそく」さん。
上野さんは、ほんと、すごかった。ひまつぶしも、あそこまでやれば、ほのものですね。
「あかみどり」さん。
アリさんにひまがないのは、人間のような言葉を持っていないからですね。だから、効率的な共同作業が成り立たない。アリさんが人間並みの高度な言葉を持ったら、地下のあちこちに、アリ文化会館が建つと思います。
by あまの (2008-08-25 09:59)