広告の詐術 [ことばの元気学]
広告は詐術です。
が、詐術がいけないとは、一概に言えません。
詐術がすべていけないとしたら、手品もいけないし、恋のテクニックもいけない。
人をうっとりさせたりびっくりさせたりする小説も映画もいけないということになるでしょう。
つまり、問題は詐術の質です。
いちばんタチが悪い詐術は、しばしばまことしやかな顔をしています。
上の広告を見てください。
1984年に出た原発の広告です。テーマは核燃料のリサイクル問題。
核燃料はリサイクルができるので、いつまでも使えるという話です。
ま、これは結果として嘘っぱちになりましたが、
問題は、嘘かほんとかというより、この広告のツクリなんですね。
すごく大まじめな顔つきをしている。モットモらしい表情をしている。
そこが問題です。
キャッチフレーズもモットモらしいのですが、
本当のクセモノはボディコピーです。
どちらの広告にも900字ほどの解説がびっしり書かれている。
けっこうむずかしいことがびっしり書かれていますから、
1行読んだだけでふつうの人は読むのをやめてしまうでしょう。
で、まじめに語ることがこんなにたくさんあるんだから、
まさか嘘じゃないだろうと思ってしまう。
ここがこのテの広告のねらい目なんですね。
読んでくれなくていい。すごいと感じてくれればいい。
そこが悪しき詐術の常套手段です。
ところで、これはいまテレビで流れているドコモのCMです。
ここでの桑田佳祐の役は、ケータイです。人間じゃない。
持ち主の若者の友人として、失恋した若者を励ましたり慰めたり。
ま、このCMはぼくの好きなものの一つなんですが、
人間がケータイだなんて、それこそ、子どもにだってわかる嘘っぱちです。
が、嘘だからこそ本当が見えるというか、
ケータイの持っている役割の一面が、くどくど説明するよりよくわかるという
そんな働きをしています。
同じ広告の詐術でも、原発のそれとは大違いだと言っていいでしょう。
ぼくはいま、月に一度、日本の代表的な広告制作者と公開対談をしているのですが、
面白い詐術でぼくらを楽しませ、
ぼくらの暮らしの想像力を切り開いてくれるような広告のあり方を、あれこれ考えています。
たまたま次回(7月31日)は、桑田佳祐の上のCMをつくった麻生哲朗さんが相手なんですが、
彼はぼくが高く買っているCMプランナーの一人。
麻生さんのつくってきたCMを何十本と見ながら、
面白い話し合いができたらいいなと思っています。
お気が向いたらのぞいてみてください。
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