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歸國、そして河野裕子さんのこと。 [ことばの元気学]

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倉本聡さんの『歸國』を見た。
舞台ではなく、テレビドラマのほうだが、倉本さんらしい力作だった。

「歸國」というタイトルの「歸」が、「帰」ではなく「歸」であるところが、みごとだと思った。
いまの人たちに「歸國」が読めないように、太平洋戦争で死んだ兵士たちには、「帰国」という字はなじまない。
「歸國」と「帰国」の間の深い亀裂に、私たちを誘い込むみごとなタイトルだ。

……と、ここまで書いたんだけど、あとは18日の朝日新聞「CM天気図」を見てください。朝日が締め切りぎりぎりになっちゃって、この話はそっちで書きます。ごめん。

この夜、歌人の河野裕子(かわのゆうこ)さんの訃報が届いた。
なんということか。がんの再発。享年64歳。
歌もすばらしいが、人間的にもすてきな人だった。

逆立ちしておまへがおれを眺めてた たった一度きりのあの夏のこと

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらって行ってはくれぬか

大泣きをしてゐるところへ帰りきてあなたは黙って背を撫でくるる

わたししかあなたを包めぬかなしさがわたしを守りてくれぬ四十年かけて

慰めも励ましも要らぬもう少し生きて一寸はましな歌人になるか

三時間かけて受けゐる点滴と六十兆の細胞 白兵戦を戦ふ

初期の歌と晩年の歌。この人の歌には一貫しているのは、裸の率直さと精神の勁さだ。そう、この人の人間的なつよさは、「勁い」という字でしか表現できない美しさがあった。
最後にお会いしたのは、ことしの二月。
松山の子規記念博物館でおこなわれた短歌の審査会だったが、会が終わって別れるとき、河野さんがそっとぼくにつぶやいた言葉が忘れられない。
「天野さん。人生って、短いね」
もうすぐやってくる死を予感していたんだろうか。
ぼくはなにも言えなくて、こっくりうなずいただけだった。
さようなら、河野さん。あなたはどこへ歸るのですか。

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(河野さんとぼく。ことしの2月、子規記念博物館で)











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