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口に戸は立てられない [ことばの元気学]

ピンポーン! 臨時ニュースその1です。若い友人から、「Yahoo地域情報で、こんなん見つけました」と、あんこ情報をもらいました。「つぶあんとこしあん、どちらが好きか?」を全国都道府県別に調査したものです。回答してくれた人は全国で計4万8458人。調査期間は2005年1月20日から同年2月21日までの約1ヶ月間です。ひまだなあ、みんな。



濃いところはこしあん優勢、薄いところはつぶあん優勢の地域で、全国の数字を集計すると、


         こしあん派24037人      つぶあん派24421人
            (50%)             (50%)
と、完全に引き分け、という結果です。
それはいいんだけど、「東のつぶあん、西のこしあん」というぼくの仮説は、みごと、くつがえされました。これにはぼくなりの異論もあり、言い分もあるのですが、それはいずれゆっくり。

ピンポーン! 臨時ニュースその2です。「ファイブミニ」の面白いポスターが現れました。


「おなかの中は、そのうち、顔に出る」
ね、外見と中身は別じゃない。中身はこんなふうに顔に現れるのです。お互い、いい顔になりましょう。あ、それで思い出したけど、細木数子っていうひとの顔は、「したり顔」のみごとな典型だなあと、いつも感心しながら見ています。


というわけで、きょうは「口」の日ですね。
口と言えば、ぼくの頭にすぐ浮かぶからだことばはこれです。
「口を糊(のり)する」
40歳以下の人は知らないでしょう。なぜ知らないか。口を糊したことがないからです。
そういう人に、どういうイミと思うかを聞くと、口に糊をつけるんだから、「黙らせる」ということじゃないか、なんて答える人が多いんじゃないでしょうか。
げんに、例の「広告批評」にのった若者たちの誤解答集を見ると、「秘密を守る」「漢字が読めないさま」「自分の意見など決して言わない」「固く口を閉ざす」といった答えが並んでいて、なんと正解率は3%でした。
でもね、この「糊する」は、モノをくっつけることじゃない、「粥(かゆ)をすする」ことなんですね。粥をすすると口のまわりに糊がくっついたみたいになっちゃうからかな。で、そのイミは、ぎりぎりの生活をする、ということなんです。つらいやりくりの貧乏生活。太平洋戦争に負けたあとの日本人は、ほとんどの人が、「口を糊する」日々を送っていたのです。
でも、いまはそんな生活をしている人はほんどいなくなった。だから、このことばも知らない人がふえるのは当然だし、そのうち消えてしまっても、それはそれでいいとぼくは思っています。ついでに言うと、「爪に灯をともす」というのも、同じようなことですね。そういうことばがなくなる世の中は、とてもいい世の中だと、一応は言っていいでしょう。

が、たくさんある口のからだことばの中でも、大切にしたいもの、なくなってしまったら困るものがいろいろあります。
口は禍の門。ぼくなんか、ときどきこの門を閉め忘れて、ひどい目にあっています。
口が重い。口の目方は人柄の目方。「軽い」のも「多い」のもいけません。
口が堅い。これも人柄。「秘密をもらさない」なんて言い方よりずっと粋な表現ですよね。
口がすべる。言ってはいけないことをつい言ってしまったときのあの感じ。「すべる」という以上に適切な表現はありません。ぼくなんか、毎日すべって、いまや口がツルツルです。
口を切る口を拭う口を割る。口を切ったり拭いたり割ったり。うまいあ。いいなあ。
口車に乗る。これもうまいですね。この車は2輪ですかね、4輪ですかね。意外に3輪車かな。
口裏を合わせる。口を合わせるんじゃない、「裏」を合わせるっていうところがポイントです。
口と腹は違う。この対比の鮮やかさ。「腹はいっぱいなのに、口はまだ食べたがる」っていうのも、この内かな。

いやー、まだまだ口のからだことばはたくさんある。それだけ、口はものを食べる入り口というだけでなく、ことばの出口としてとても大切な器官だと、ご先祖さんたちは考えていたのでしょう。
が、こんな話をいつまでやってもキリがない。このへんで、みなさんに作ってもらった「口」の新作をご披露します。これを見ると、ほんと、みなさん「口のへらない」人ばかりだと、感心しますよ。
口から足が出る=ふんづけてやりたいくらい憎らしい。(スティッチの親分)
口で燃やす=ひとのブログや掲示板を炎上させる。(ヘロいん)
口止まり=口だけ。有言不実行なこと。(モンガー)
口にぶらさがる=付和雷同すること。(teng)
口が腐る=嘘を言ってしまって自分でいやな思いをする。(銀鏡反応)
このほかに、(おさる)さんから、「口」のからだことばの「口」の部分を「ブログ」と置き換えてみると面白いですよ、というコメントをもらいました。
ブログは禍の門
ブログと腹は違う
ブログが肥える
ブログでは大阪の城も立つ
といったぐあいです。面白いですね、この発見は。そう、いまは口をきかずに、みんなブログでしゃべってる時代なのかもしれません。

さて、次は、「唇」の代表的なからだことば6点に、思うがままのイミを書いてみようよという宿題の答えですが、これがやたらおかしかった。それをここで発表するつもりだったのですが、口から先に生まれてきたようなぼくも、きょうはもう疲れて口が棒になりました。で、発表は次回にさせてもらいます。
今回は課題はありませんが、ご意見やご感想を聞かせてくれるとうれしい。あ、それと、お口汚しのお菓子は用意しませんでしたので、それぞれご自分で汚してください。では。


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gillman

おっと、こしあんとつぶあんの分布、みごとに東西に分かれましたね。
それもあんころじー仮説と逆のパターンで。ぼくも理由を推理してみたくなりました。もしかしたらその地方の有名な菓子との関係があるのかも。それとも方言の伝播研究で有名な柳田國夫の蝸牛論みたいに、こしあんの伝播経路となんか関係があるんでしょうか。興味津々。
by gillman (2006-06-03 09:03) 

おさる

こんばんは
あれ?山形って「つぶあん」なんですね。わたしは「こしあん」派ですが。面白いですね。逆なんですねぇ。実家が山形なので、ちょっと気になりました。

「したり顔」さんってどんなお顔でしたっけ?テレビに出てくると意識から飛ばしてしまうので、良く見たことがないのですが・・・。

記事に取り上げていただいきまして、ありがとうございます。
コメントの励みになります。(*^^)v

ISAKOさんの絵とっても可愛いですね。心が和みますでし。
by おさる (2006-06-03 22:56) 

レトロおじさん

ボクは大阪人で、こしあん派です。小さいときは、こしあん大好きで、つぶあんは食べられない、という極端さでした。

京都なんかイメージとして、もこしあん派だと思うんですけどね。
こしあんのほうが手がかかりそうだし、「こまかい」感じです。

町屋の格子も関東より関西のほうが細い(繊細)だと聞いたことがあります。
by レトロおじさん (2006-06-04 00:27) 

アレコレーズ

みなさまはじめましておじゃまします。
さいきん、旅のようかん同士が夕暮れの山道で邂逅するお話を書いたのですが、なんとなく双方こしあんにしました。もし羊羹のこしあんつぶあんも東西くっきり分かれているならば、東からの旅ようかんと西からの旅ようかんのあんが違っていて、そちらの方がドラマチックだったかなあと思いました。
by アレコレーズ (2006-06-05 23:30) 

tami

「口に糊する」はしりませんでした。40歳以上なのですが。
でも「爪に火をともす」はよく知っています。我が家の今です。

母からいつも「アンタは口から先に生まれてきた」と言われていました。
新しくこられた上司に私の同僚が「お母様とご一緒にお暮らしですか?」と尋ねたら
「個人情報保護法で答えるつもりはありませんが・・・・」
こういうのを減らず口っていうのでしょうか?
こんなことを書いている私は無駄口たたきすぎですね。
あるものをこういう風に使うのはたのしいのですが、ないものを作るって本当に難しいですね。今回思いしりました。
by tami (2006-06-06 22:57) 

teng

「こしあん」か「つぶあん」かどうしても選べない僕としては
上の結果は非常に腑に落ちるといいますか、妙に安心いたしました。
結果如何では大勢に流される等の影響が出ないとも限りません(笑)

口を使った言葉って本当に多いですね。
諌める言葉が多いのも口の特徴でしょうか。
この前、志ん朝さんのCDを聞いていたら
「江戸っ子は五月の鯉の吹流し、口先ばかりで腸はなし」
なんてことを言ってました。
ちょっと言い訳じみている感じもしますが、諌めるばかりじゃなくて
「まあ、そういうことだからいいじゃないの」という感じが、
大らかでいいなあと思いました。
最後に、口を糊する経験はありませんが、
口をマヨしたり、口をケチャした経験はあります(笑)
by teng (2006-06-08 01:14) 

あまの

「gilman」さん。野性は洗練をめざし、洗練は野性を懐かしむ。ひとむかし前の好みが、いまは逆転というか、入れ替わっているんじゃないか。なんてあんころ爺は考えています。

「おさる」さん。↑の仮説が、山形にも。なにせ、京都の芸妓さんや舞妓さんがジーパンで闊歩する時代ですから。

「レトロおじさん」。↑の仮説を見てください。大阪人がつぶあん食べてる図はぼくにも想像できません。

「アレコレーズ」さん。面白いアイデアですね。続編をぜひ。ようかんよりおはぎのほうが笑えますね。

「tami」さん。「口づくし」で文章を書くなんて、tamiさんらしい手口ですね。なんて、ぼくもこういうほうが書きやすい。でも、tamiさんのも面白いですよ。

「teng
by あまの (2006-06-10 12:45) 

あまの

「teng」さん。「口をマヨする」「口をケチャする」。うまい。現代では、こっちのほうが「ビンボー暮らし」の表現として適切かも。ただし、いまどきの貧乏は、貧乏と書くより、ビンボーと書いたほうがぴったりくるようです。
by あまの (2006-06-10 12:55) 

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