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胸おどる「からだことば」 [ことばの元気学]

胸おどる5月ですね。え?胸はおどらない?ゆれるだけ?たしかに運動会で走ってる女の人の胸は、ゆれることはあるけど、おどったりはしないですね。でもね、それを見ている男たちの胸は、そのときたぶん、おどってるんじゃないかなあ。

とまあ、こんなふうに、からだの一部をつかって感情を表現することばって、「胸がおどる」のほかにもたくさんありますよね。「血がさわぐ」とか、「腹が立つ」とか、「へそが茶をわかす」とか。この場合だって、血がワイワイさわいでいるところを見た人はいない。腹だって立ったりすわったりしないし、へそで茶がわかせるんなら象印ポットなんか要らないわけです。

でも、なぜ、こんなことばが生まれてきたか。それは、ことばって有限なのに、人間の感情には限りないひろがりがあるからですね。つまり、有限のことばで無限に近い感情の機微をあらわすために、ぼくらのご先祖さんは、すごい発明をした。そのおかげで、日本語はうんと豊かになりました。
とまあ、こんなふうに、からだの一部をとりこんだことばを「からだことば」っていうんですが、東郷吉男さんの「からだことば辞典」(東京堂)にのっているだけでも、その数はなんと6000以上もある。すごいですねえ、ご先祖さんの知恵っていうのは。これはもう、かけがえのない文化遺産だと思いませんか。

ところが、ところがですね、このところ、その財産がどんどん目減りしている。からだことばのかなりのものが、若い人たちに通じなくなってきているんです。どうしてか。養老孟司さんに聞いたら、「いまの世の中、脳ばかり肥大して、からだがお粗末にされてきているためでしょう」と言ってましたし、ある言語学の先生は「日本人の感情表現がどんどん貧しくなってきているせいだ」と嘆いていましたが、なんにせよ、これは、たいへん心の痛む(これもからだことばだ!)モンダイだと、ぼくは思いうんです。

ところで、こうしたからだことばのモンダイを、最初にぼくに教えてくれたのは、NHKの「日曜喫茶室」でお会いした歴史家の立川昭二先生でした。それ以前にも、秦恒平さんの「からだことばの本」(筑摩書房)という面白い本がありますが、とにかく、このとき聞かされた「からだことばが重症だ」という立川さんの話に刺激されて、ぼくもかかわっている「広告批評」という雑誌の1996年12月号に、「からだことば」の特集を組みました。それがきっかけかどうかはわかりませんが、それ以降、からだことばについての本や辞書が、かなりたくさん出てくるようになったと思っています。

そんなにたくさん本が出てるんだったら、いまさら、お前がやることは何もないだろう、と思う方もいるでしょうが、どっこい、そうはいかないんですね。なぜって、大切なのは、からだことばについて、いろいろお勉強をすることじゃない。ほんとうに大切なのは、いまや栄養失調でやせ細ってしまっているからだことばたちを、もっと元気にすることです。そのための具体的な知恵を出し合うことです。こういうと、なにかりっぱなことを言っているように聞こえますが、あけすけに言ってしまえば、からだことばをサカナにして、みんなで面白く遊ぶのが、いまいちばんいいことじゃないかと思うんです。

そこで、あんこで太ってしまった腹をにらみながら、ぼくはこう言いたい。
①若い人たちに知られずに、さびしく消えていくからだことばがあっても仕方がない。たとえば、「眉を落とす」なんて、そういう風習自体がなくなっているんだから、消えてもしようがないと思う。
②でも、それなら、いまの時代にふさわしい新しいからだことばが作られてもいいんじゃないか。古いものをありがたがるだけじゃなく、このさい、みんなで、あたらしいからだことばをつくる遊びをしたらどうだろう。ことわざだって、ことわざ辞典にのってるだけがことわざじゃない。「赤信号みんなで渡ればこわくない」じゃないけど、勝手にどんどんつくってもいいんじゃないかな。

というわけで、あんこはちょっとお休みして、次回から、毎回バカ話をマクラに、からだことばをテーマにした課題を出すことにします。ぜひ、いっしょにあそんでください。これはことばあそびですから、くだらなくていいんです。いや、くだらないほうが面白い。
ちなみに、「広告批評」で特集をしたとき、若いコピーライターのタマゴ100人に「からばことば」のテストをしました。よく知られたからだことばの例を並べて、「このことばのイミは?」「知らないときは想像力を働かせて、勝手にイミを書いてください」と問いかけたら、面白い答えがいっぱい返ってきました。ちょっと、その一例。

「顔が立つ」
 (正解率54.9%)
 (回答例)目立つ。化粧のノリがいい。
「舌を巻く」
 (正解率42.3%)
 (回答例)キスがうまい。言いくるめる。珍味。
「鼻毛を読む」
 (正解率8.7%)
 (回答例)トシを当てる。予想を立てる。大気の汚染状態をはかる。
「あごを出す」
 (正解率35.2%)
 (回答例)イノキの真似をする。生意気な態度をとる。

こうした例は次回から、いろいろご紹介していきますが、「舌を巻く」なんていうのは、これからは「キスがうまい」というイミに使ってもいいんじゃないかと思うくらい面白いですね。(どうせ、半数以上の若者は本来のイミを知らないんだし、そのことにいまさら舌をまいても仕方がないしね)。
というわけで、本番は次回から。ぜひ、いっしょに遊んでね。


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たんぽぽ

初めまして。
ここに書き込みさせてもらうのは、凄く勇気がいりました。
でも思い切って今回は書き込みさせてもらいます。
からだ言葉って凄く面白そうでわくわくして次を待っています。
一例の問題がほとんど私、間違ってしまってました。
次回からの天野祐吉先生のブログ楽しみにしております。
最初の絵に惹かれてしまいました。凄く優しいほんわかした絵ですね。
下の絵は斬新でユニークですね。
こんなブログ待っていました。
次回を楽しみにしています。
また来ます。お休み明けですので先生もお仕事頑張ってください。
by たんぽぽ (2006-05-08 09:27) 

ジャム

こんにちは。
「からだことば」面白そうですね。
ここからどんな言葉が生まれるか? 
それにしても、突然、
(連休前)あんこのお話
(連休後)からだことばのお話
に変わりましたが、連休中、天野さんに何かあったのでしょうか?
by ジャム (2006-05-08 17:05) 

銀鏡反応

yo!待ってました、新シリーズ!
脳ばかりでかくなって、身体がお粗末になってしまった(養老孟司さん)
がために“痩せてしまった”日本語。そんな日本語の身体性を取り戻すキッカケを、あまのさんといっしょにこのブログで掴めたらいいですよね!
果たして「ピピたん」(茂木健一郎さんの手になる造語)に匹敵する新たな言葉は生まれるのか?へそで茶が沸くほどホットな問題が次回から飛び出してくるかもしれませんね。
by 銀鏡反応 (2006-05-08 21:53) 

ちゃぷちぇ

初めまして!
天野先生のコラムは朝日新聞のCM天気図でいつも楽しみにしております。それ以外にも、こんなブログをされていたなんて楽しみがひとつ増えました。
私もかなりのアンコ中毒(特につぶあん)ですが、このブログの内容は目を見張るばかりです。
からだことば、っていいですね。コトワザや四字熟語、慣用句に並ぶ四大テノールに入りそうです。日常会話で自然に使えるような新生からだことばが芽生えたらいいですね。
by ちゃぷちぇ (2006-05-08 22:24) 

ぜんそく

あまのさんの顔にあんこを塗らないように頑張ります。
by ぜんそく (2006-05-09 00:03) 

とくさん

こんにちは。。
以前から読ませて頂いたのですが、書き込みは初めてです。
あんこ苦手回復に、天野さんのブログはとても効きました(笑)
そして近頃、あんこが食べられるようになった喜びと、
こんなに面白いシリーズが始まったのに、手をこまねいてただ見ているわけにはいかない、僕も一緒の遊びたい!という想いが、どきどきするのですが、書き込みに向かわせました。
からだことばの元々の意味をふまえていても、ふまえていなくとも、
あぁ、それだっていうガッテンのいくことばが出てきたら、楽しいですね。
くだらなさってワクワクします。
by とくさん (2006-05-09 00:17) 

スティッチの親分

胸おどる5月・・
私は旦那に「虚乳」と言われてますから、おどりたくても胸がおどらない・・シクシク・・
言葉あそびオモシロそうです~~
ちなみに例題は全部正解でした♪
言葉が壊れたり忘れさられた言葉が多いから、今回のシリーズ本当に楽しみです♪
よっ!待ってましたぁ~!「天野屋っ!」(歌舞伎調)
一緒に遊ばせてくださいませませ♪
by スティッチの親分 (2006-05-09 11:52) 

sola

わぁぉ~面白そう!是非参加をば!
えっとぉ「目がてん」。正確には「目がてんになる」でしょうか。
コレは……ダイエット法を警告する言葉。
誤ったダイエット法でリバウンドを繰り返し、目が点になるほど目周辺のお肉が盛り上がってしまったという意味。
あー趣旨が違っちゃたらすみません。。
by sola (2006-05-09 20:01) 

tami

連休明け、どんなテーマでくるんだろうと小さい胸をワクワクさせ、待っていました。
一番上の絵、いいですね。優しくて可愛らしくて。

新しいからだことば、楽しそう。
このあんころじ~から発信されて日本中に広がるといいですね。

でも、新しい言葉の前に既存の言葉、しっかり勉強する必要が私にはありそうです。
例だけでも、わからないのがありましたから。
by tami (2006-05-10 00:39) 

ぶらっくびねがー

あまのさん、こんばんは。
新シリーズ待っていました!
とても面白そうなので、ぜひとも参加させてもらいたいです。
しかし、「鼻毛を読む???」
すごい言葉ですね。まったく知らなかったです。
意味を調べてみると・・・。
ぬぉ。
・・・自分は鼻毛を読まれっぱなしです。
by ぶらっくびねがー (2006-05-10 01:04) 

gillman

まってました!
 そうですね、からだことばってとても数が多いんですよね。それだけ昔の人は体と対話していたということでしょうか。先日、外国人留学生の日本語検定試験対策で体の部分が出てくる熟語を調べていたら、その数の多いのに驚きました。「顔を潰す」なんて、韓国人の学生はよくわかるって言ってました。外国人が共感できるような表現もあるのかも…
 僕の好きな外国のからだことばでドイツの「右手は左手を洗う」というのがあるんですが、これは武士は相身互いっていうことですかね。
どんな言葉がでてくるんでしょうか。ワクワクしますね。
by gillman (2006-05-10 12:05) 

うるら

天野さん、新シリーズを首をなが~~~くして、お待ちしておりました。
鼻毛を読む?は・・・は・・・鼻毛なんかを読むの?こんな言葉があるの・・・?最初は、読み間違えたのかとも思いました。早速「広辞苑」で調べたんですが、ちゃんと載っててまたまたびっくりしました(笑)6000以上もあるんですか?知らない言葉のほうが絶対的に多いと思います。どんな表現があるのか楽しみです♪
by うるら (2006-05-10 19:10) 

あまの

「たんぽぽ」さん。書き込み、ありがとう。例題はわからないほうが、いまやフツーなんです。知ったからといって、入試問題に出るわけじゃなし、とくに役には立ちませんが、その役に立たないところが面白いんですね。一緒に遊びましょう。

「ジャム」さん。あんこからからだことばへの転向理由は、ブログのいちばん上にある表題「天野祐吉のあんころじい」の下に書き入れました。テキトーですけどね。

「銀鏡反応」さん。ひきつづき遊びにきてくださってありがとう。あんこのように腹の足しにはなりませんが、どうぞよろしく。

「ちゃぶちぇ」さん。CM天気図はいいかげんだけど、こっちはもっといいかげんです。「いい加減」って、風呂の湯加減もそうだけど、ぼくは好きなんです。

「ぜんそく」さん。さっそく「顔にあんこをぬる」なんて、面白いからだことばをごちそうさま。上質のこしあんでした。

「とくさん」。苦手なあんこの克服、おめでとう。あんこ派がふえるのは、あんころ爺としては、とにかくうれしい。こしあんをよろしく。

「スティッチの親分」さん。いつもありがとう。子分たちは元気ですか。それにしても、例題をぜんぶ知ってたなんて、あなたはいったい何者ですか。あ、スティッチの親分さんでしたね。

「sola」さん。「目がてん」の画期的解釈、目がテンでした。面白いの、いろいろ、寄せてくださいね。

「tami」さん。「おいしい」のをどうして「ほっぺたが落ちる」というのか。これからも、おいしいあんこを尋ねる旅を私的につづけ、各地に落ちているほっぺたを拾って歩きたいと思っていますが、からだことばのほうもよろしくね。

「ぶらっくびねがー」さん。ぼくなんか、もう鼻毛は一本もありませんよ。
がんばりましょう。

「gilman」さん。日本にからだことばが多いのは、やっぱりヒマだったからでしょうか。ヒマだからみんな、おっしゃるように、からだと対話していた。それにしても、「右手は左手を洗う」って、どういうイミでしょう。ドイツはナゾですね。

「うるら」さん。首をながーくさせてすみません。面白いの、書かなくっちゃ。腕が鳴ります。でも、腕って、どう鳴るのかな。
by あまの (2006-05-10 23:07) 

midori

面白そうですね。
(↑これも、例えば「鈴木その子みたい」というような意味に・・・?)
by midori (2006-05-13 16:51) 

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