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灯 [ことばの元気学]

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木蝋の灯です。
いまどきのパラフィンのろうそくの灯とは、色が違う。ほんのり、赤みがかった灯です。
ハゼの木の果皮からつくる木蝋は、世界でももう2,3か所でしか作っていないらしい。
数年前、松山から1時間ほど行った内子の町でもらってきました。
内子といえば、大江健三郎さんを生んだ土地ですが、もうひとつ、内子座というすばらしい芝居小屋を生んだことでも有名です。
誕生は大正5年(1917年)ですから、ことしで93歳。吉右衛門さんも勘三郎さんも玉三郎さんも、みんな訪れたことのある芝居小屋です。
ぼくも5,6回、桟敷にすわって文楽を楽しんできましたが、東京の歌舞伎座や国立劇場で見るよりも、ずっと気分がいい。贅沢な時間を過ごしました。
そう、これが内子座。

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この小屋の楽屋に、人間国宝の七世・竹本住大夫さんをおたずねして、いろいろお話を聞かせてもらったこともあります。
いまもお元気で活躍中ですが、ホント、この人の芸はすばらしい。文楽というのは《見る》というより《聴く》ものだということを、この人の浄瑠璃を聞いて知りました。
そう、この人が、ぼくの大好きな住大夫さん。人間的にも、すごくチャーミングな人なんだよね。そうだ、そのうち隠居大学に来てもらおう。

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話は変わるけど、正岡子規は近松門左衛門をあまり買ってない。あんな冗長な文章はいかん、なんていった調子でけなしてる。ま、写生文の元祖だからね。

でも、そうかねえ。たとえば、有名な「曽根崎心中」の最後の場。

「この世の名残り、夜も名残り。死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜。一足づつに消えて行く、夢の夢こそ哀れなれ。あれ数ふれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響きの聞きおさめ。寂滅為楽(じゃくめついらく)と響くなり…(後略)」

読めば、たしかにそうも言える。でもね、たとえばこれ、住大夫さんの語りで聞いてごらんよ。死にに行く男女の姿が、目をつぶっていても見えてくる。日本の文芸というのは、「文字」じゃない、「音」というメディアの上に成立してきたんだってことがよくわかる。

話がそれちゃったけど、機会があったら、ぜひ内子座へ行ってみてください。
この小屋を建てたのは、國じゃない。内子の木蝋の商人たちが金を出し合って建てたんです。おかみの力じゃなく、町衆の力で建てた。商売で儲かった金は、文化に使って、みんなで楽しもう。

木蝋が町に文化の灯をともしたんだよね。


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