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淀川さんの遺言 [ことばの元気学]

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どちらも故人になりましたが、「広告批評」の92年10月号で対談したときの、六代目中村歌右衛門さんと淀川長治さんです。
歌右衛門さんと言えば、戦後の歌舞伎界を代表する名優で、名実ともに人間国宝の人。会ったとたんに淀川さんは大感激で――、
「僕ね、昨日は全然寝られなかったの。お会いできるのかと思ったら、うれしくて、こわくて、夜中じゅうこんなこと聞こう、あんなこと聞こう、こんなに質問考えてきた。(と、上着のポケットから文字をびっしり書き込んだ紙を取り出し)だから、いろいろ聞かせてくださいね」
と、子どものようにはしゃいでいました。
淀川さんは、たいへんな歌舞伎通で、お二人の対談は中身が濃くて、深くて、それでいて面白くて、横で聞いているぼくらもとても興奮しました。

が、それはさておき、その淀川さんに、「広告批評」は1997年7月、「21世紀への遺言」というシリーズ企画の一つとしてインタビューをお願いしました。
「律義な淀川さんは<21世紀への>という言葉をとても重く受け止めていて、<僕、メモをとったんだよ>とおっしゃりながら、堰を切ったように話しはじめて下さった様子が、いまも目に浮かびます」
と、インタビュアーの島森路子がのちに書いています。
延々3時間にわたった淀川さんへのインタビュー。そのほんの一部を、「島森路子インタビュー集①」からご紹介します。

21世紀になったら、人間は表向きにはどんどん進歩しつづける。それはそれで結構なことだけど、そういう方にばっかり忙しくなると、マナーがなくなってくると思うのね。行儀作法から人間の心の深いいたわりから、そうしたものを考えるゆとりがなくなってくる。情緒がなくなると思いやりがなくなって、友情も親子の愛情もなくなってくる。するとどうなるか。みんな孤独になっちゃうの。うんと豊かで、うんと贅沢持ってるくせに、心の中には最高の孤独を持つようになる。

それがいいという人もいるかもわからんけど、僕は嫌いだね、そんな世界。そんな世の中を見る前に、早くあの世に呼びにきてもらいたい。だから、ほんとの本音をいうと、21世紀に僕は期待できないの。仕事の上では大成功、人間的には敗北のほうにいくと思う。

無理を承知でいうけど、僕の21世紀への一番の望みは、友情、そして愛情を、ぐっとつかんで離さない世界になってほしいということね。タッタカタッタカ忙しくなって、富はどんどん増えて、みんな相当立派な生活ができるようになるかもしれないけど、心の中はドライになって、人のことを考えない、冷たい個人主義になる。 それを少しでも救うためには、これは非常に幼稚な考えではあるけれど、学校の勉強以外のところでもっと遊んで、豊かな心の楽しみを持つようになることが大事なの。

このあと、映画の教育的効果や、映画に育てられたご自身の歴史などを、熱っぽく語られているのだが、「すごいなあ、この人は」と、つくづく感じさせられてしまう。
それにしても、淀川さんの予言通りになっていく21世紀を、どう生きるか。
ワールドカップの日本戦も終わったことだし、少しは考えなくっちゃ。                      

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