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消化力と唱歌力 [ことばの元気学]

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明治のはじめ、海の外からどっと新しい文物が流れ込んだ。ビールとか、牛肉とか、牛乳とか、自転車とか、いやもう、日本人が見たことも聞いたこともないようなものが、次々に上陸してきた。
でも、日本人の消化力って、すごいんだよね。すさまじい食欲で、そういうものを暮らしの中にとりこんでいく。
で、数年のうちに、町に牛鍋屋が登場する。西洋料理店が現れる。新しがりの連中は、西洋理髪店でちょんまげを切り落とし、西洋洋服店で背広を新調し、西洋靴店で下駄を靴にはきかえるという、みごとな離れ業をやってのけたのだ。

そして、明治8年、銀座木村屋にアンパン登場。
これこそ、明治人のたくましい消化力と知恵の結晶でなくてナンであろうか。
なんてったって、あなた、アンパンの外側はパンである。西洋文化の象徴である。
で、なんてったって、あなた、中身はあんこである。これぞ日本文化の象徴である。
西洋のカタチ(外側)を借りて、日本のココロを詰め込んだもの……それがアンパンなのである。

というわけで、ここまでくればおわかりだろう、唱歌もまた、西洋の曲(外側)を借りて日本の詞(中身)を詰め込むというスタイルで成立したのだわさ。

明治初期、明治政府は海外へさまざまな分野の視察団を派遣したり、海外からその道に強い外国人を顧問として招いたりして、西洋文明と文化の導入を急ぐ。
その中には、子どもに対する新しい音楽教育の課題もあった。
なにせ、この時期の日本には、音楽と言えば端唄や小唄や都々逸くらいしかなかったのだから、その苦労はたいへんなものだった。
が、その詳細は省略することにして、明治14年、はじめて「小学唱歌」なるものが制定される。
その中に収められた代表的な唱歌の一つが、これだ。


見渡せば(ルソー作曲・柴田清煕作詞)

見渡せば 青柳
花桜 こきまぜて
都には みちもせに
春の錦ぞ
佐保姫の 織りなして
降る雨に そめにける


知ってるよね?
知ってるはず。いまは「むすんでひらいて」って歌詞で歌ってるアレである。
ルソーというのは、ご存じジャン=ジャック・ルソーね。18世紀フランスに偉大な思想家であった彼は、なんとオペラも書いていて、この曲はその中のもの。当時のヨーロッパでは、広く知られていた旋律だ。
その曲だけを借りてきて、なんと、日本のココロを詰め込んでいる。
その元歌は、これも知ってるよね。

見渡せば柳桜をこきまぜて 都ぞ春の錦なりける

古今集の素性法師の歌だよね。ルソーが焼いたパンの中に、素性法師の作ったあんこ(もちろんこしあん!)をちゃっかりつめこんだってわけだ。
これがアンパンでなくてなんであろうと、ぼくは思うのだが、実はこの奥はもっと深く、そして暗い。それはまた、アンパン(もちろんこしあん)食ってから次回にね。

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コメント 8

misa

はじめまして。misaと申します。
若輩者のゆえ、稚拙な文になるかもしれません;
なるほど唱歌とアンパンがこんな風に繋がるとは思いもしませんでした。
アンパンひとつとっても外側が外国で中身が日本だなんて・・・
(もしかして”まんじゅう”がヒント?と思ったりしました!)
唱歌「見渡せば」はルソーと古今集のコラボレーション・・・
日本人の消化力は本当にすごいですね!
こうゆうことは教科書にも載っていませんから、新鮮です。
こんどアンパンを食べるときはそんなことを考えながら食べたいと思います。
ステキな大発見ありがとうございます!!発想の転換は大切ですね。
次回も楽しみに待っています。
by misa (2008-12-15 22:08) 

銀鏡反応

おお~!
 
♪見渡せば青柳 花桜 こきまぜて…♪

「むすんでひらいて」に、かつてそんな床しい歌詞がついていたとは、私も知りませんでした。しかも、元歌が古今集の素性法師の詠んだ歌だったとは!(たしか中学時代の国語の教科書に載っていたのを何とはなしに覚えていましたが、誰が詠んだかは書いてなかったと記憶しています)

和洋折衷とよくいいますが、そこには他所の文化の消化という重大な、しかし面白い意義があったわけですね。

いやぁ、我々の先人は、諸外国の文化を消化し、それをやがて自国の文化に“昇華”させることにほんとに長けていたんですねぇ。
by 銀鏡反応 (2008-12-15 22:24) 

とくさん

しょうかなあ、、、やっぱり、ダジャレ好きです、それを見破ったのは、
だれじゃ。天野さんか。

外国のものを、ちゃんと、自分の言葉に消化してきた日本人、
あのシャンソンもちゃんと、日本語に訳して歌ってた時代があったこと、
最近、知ったのですが、、、。

映画のタイトル、「そのままカタカナ英語」になってしまいましたね。
以前の「カタカナ」のお話を思い出しました。


by とくさん (2008-12-15 23:28) 

rio

こんにちは。

きょうの朝ごはんに、ヤマザキパンの「薄皮つぶあんぱん」を食べました。西洋のパンの中に日本のあんこ。ですが、「薄皮~」シリーズは、ケーキと言っていいほどのやわらかいパンが売りです。「日本のパンに日本のあんこ」って感じです。

↑君が代もこれと同じだなあ、と。あんこ(歌詞)は和歌なんですよね。パン(曲)は、最初はイギリスパンだったのが、お口にあわないということで宮内庁御用達の羽二重になり、もうちょっと庶民の口にあうように大福になり、それをドイツ人が洋菓子風にアレンジした、という。

これが「予感」の正体でした。
by rio (2008-12-16 09:44) 

FXトレード

急に寒くなってきましたが、健康に気をつけて頑張ってください。応援しています^^

by FXトレード (2008-12-16 20:41) 

yuto

ってことは、アニメのアンパンマンの主題歌は日本歌曲ってことになるのでしょうか?自分の顔(アンパン)をお腹のすいた人にあげるっていう行為は究極の人助けですもんね!!
天野さんは他人に心の詰まったメッセージをあげる表現者ということになるんでしょうね!!

久々に、「HUGRY」なメッセージを聞かせて下さい。
アンパンのパッケージに「世の中こんなに甘くない!」ってのはどうでしょうか?
by yuto (2008-12-17 13:55) 

cnh

初めまして。

いつも応援していますよ~。
お仕事頑張ってくださいね!

また遊びにきますね。

by cnh (2008-12-20 21:32) 

あまの

「misa」さん。
ようこそ。本当をいうと、ぼくはあんぱんよりも、まんじゅうのほうが好きです。

「銀鏡反応」さん。
「見渡せば」の歌詞はいいですね。「むすんでひらいて」もいいけど、ぼくが歌うとバカみたいです。

「とくさん」さん。
越路吹雪とクミコは、日本語でシャンソンが歌える双璧ですね。聴き比べして、楽しんでます。

「rio」さ。。
おみごとな予感でした。

「yuto」さん。
「世の中、こんなに甘くない!」。いいですね。ぼくなら買います。






by あまの (2008-12-23 02:25) 

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