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あんこ東と西 [あんこ学]

徳川家康が江戸に幕府をひらいたときは、江戸は日本の政治&軍事センターにすぎませんでした。が、それからほぼ1世紀後の元禄時代になると、江戸は名実ともに京都と並ぶ日本の文化センターになっていました。
上方と江戸と、二つの文化センターが、せめぎ合い、競い合い、そのことで以後の日本文化は、面白い発展をとげていく。なにしろ、上方と江戸は別の国ですからね。縄文系の東日本国と弥生系の西日本国。国が違うから、文化の摩擦もそれだけ大きいし、進化も劇的になる。で、その中から、浮世絵が生まれ、歌舞伎が育ち、落語が出現する、といったぐあいに、この国は世界に冠たる文化大国になっていったのです。
この時期、京都の名だたるお菓子屋たちさんも、続々江戸に進出してきます。と同時に、江戸独自のお菓子屋さんも誕生する。歌舞伎や浮世絵や落語だけじゃない、お菓子の花もにぎやかに咲き競うことになります。

当時の上方文化は、本質的に貴族文化です。それに対して江戸の文化は町人の文化、庶民の文化でした。貴族文化にコンプレックスのある武士階級は別として、江戸の庶民は上方文化を無条件でありがたがっていたわけじゃありません。お上品ぶったものには「てやんでえ!」の精神で立ち向かい、江戸流に変形して受け入れています。
たとえば、「小倉百人一首」は江戸でも大いに流行しましたが、それをひねって「道化百人一首」とか「女房百人一首」とか「烈女百人一首」とか「祇園名妓百人一首」とか「今様職人百人一首」とか、いやもう、いろんな百人一首を作って遊んでいる。都の人たちもひまでしたが、江戸の人たちもけっこうひまだったんですね。

つまり、江戸の人たちは、上方文化というこしあんを材料にして、独自のつぶあん文化を作り出していったわけです。で、これがまた、上方にもいろいろ影響を与えていく。そんな上方と江戸の、もっと広く言えば東国文化と西国文化のキャッチボールを通して、摩擦と融合を通して、日本文化の花が大きく咲いたといっていいでしょう。

そんな上方と江戸の文化的資質の違いを、思いつくままに並べてみると、
  (上方) (江戸)
  優美―─洒脱
  洗練──素朴
  加工──素材
  懐石──寿司
  静謐――喧騒
  微笑――哄笑
といったように、いろんな違いが見えてくる。で、こしあんとつぶあんは、そんな違いの総元締めみたいなものだと思うんですね。(さらに、こしあん派はトランクスをはき、つぶあん派はブリーフを好むというのも、上の違いから自然にわかってきますよね。洗いざらしのジーパン派と刺繍入りのジーパン派の違いもね)

というわけで、古代から近代への時間的なキャッチボールと、上方と江戸という空間的なキャッチボールのなかで、この国の文化は生まれ育ってきたわけですが、そんな長く深い歴史を、ちいさなからだで一身に体現しているのが、実は「あんこ」ではないだろうかというのが、このばか話の主題でした。
つまらない話であなたの時間をむだにしてしまいましたが、あなただってひまだからこんなものを読んでいるに違いない。で、これでこりずに、連休があけたら、ぜんぜん違うテーマでまたばか話をしようかなと思っていますので、どうぞまたひまつぶしにきてください。こんどのは、読むだけじゃすまない、みなさんの知恵を借りながら進めていこうというテーマなので、すごくひまがつぶれると思います。

さらに生き続ける道を求めて、あんこはいまやジャムの世界にも進出しています。そのひとつをご紹介して筆をおきます、じゃない、あんこをおきます。パンに塗る小豆スプレッド。これってね、けっこううまい。あんこのソムリエがいうんだから、間違いありません。じゃあね。


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銀鏡反応

こんばんは。おお、一番乗りだ!
あんジャム!あんこが新たなる“進化”を遂げるとこんなになるんでしょうか。
それにしても鎖国の時代、上方文化vs江戸文化が日本の豊かな文化を生み出していったことは、凄いことだと思います。その豊かな文化の上に、西洋文明の大津波が押し寄せ、そこでまたまた摩擦が起き、キムラヤの桜あんぱん、矢羽紋の着物に海老茶はかま、編み揚げブーツの明治~大正の女学生スタイル、その他諸々の和洋折衷文化が生まれていったわけなのですが…。
そういや、書生節(ヴァイオリン演歌)なんてものもありました。バンカラ学生スタイルにヴァイオリン、といった出で立ちで、時事ネタを歌にしながら、町をへたくそで味のあるヴァイオリンを演奏して歩いていましたよね。でも、昭和に入ると歌謡曲レコードの台頭で次第に街角から姿を消していったそうです。
by 銀鏡反応 (2006-04-15 22:01) 

銀鏡反応

ア…!筆を置く、ということは、この「あんこ」談義はいちおうこれでひとまずおしまい、ということなのでしょうか?
連休明けをたのしみにしています!
by 銀鏡反応 (2006-04-15 22:04) 

tami

こしあんとつぶあんはどっちがえらいかからはじまりましたね。
日頃考えもしないことを深く掘り下げて、面白く、時に少し難しく教えてくださり本当にありがとうございました。
日頃つかわない脳をつかったような気がします。
あんこを見る目が変わってきたのは確かです。

又連休が明けたら違うテーマで楽しませてくださるとの事、嬉しい限りです。
でも、連休明けまでにはまだ間があります。
もう1,2回は更新していただきたいです。
そうですね、花見今昔とかいうテーマはどうでしょうか?
凄い贅沢なお願いですね。
by tami (2006-04-16 00:05) 

ぶらっくびねがー

あまのさん、こんばんは。
あんこの旅とても楽しく読ませてもらいました。
違いって面白いですね。とくにその違いのルーツを見ていくと、人間味溢れる世界が見えてきてとてもいいですね。
自分もあんこ学の影響で最近よく和菓子を食べるようになりました。
もみじ饅頭・月餅・おはぎ・タイヤキ・・・う~ん体脂肪が・・・。
連休明けの新しいテーマも楽しみにしてますね。
あっ、自分もあんこ学会にぜひ。
by ぶらっくびねがー (2006-04-16 01:34) 

スティッチの親分

(上方)→西 (江戸)→東の違い、よく分かりました~
天野さんは生まれは足立区千住ですよね!では本当はつぶあん?(笑)
あっ!でも中学生の頃、松山に引越ししたんですよね・・だから、こしあん?本当の性格はどっちなんでしょうか(笑)
あんこのソムリエの肩書きはもう絶対天野さんのものです~!
ソムリエだから、つぶあんのお菓子も食せねばぁ~!!
連休あけまで天野さんのブログお預けですかぁ?
NHKの「これであなたもブログ通」でブログは日記だからなんでも書いたらいいと天野さん、おっしゃってましたよね!
だから、連休明けと言わずに日記だからなんでも書いてアップして下さいませぇ~~!
アマノジャックさまぁ~~!楽しみにしてますぅ~
あんこジャム、美味しかったですか?きなこかけてみてください~!
美味しいらしい・・です・・私は試してないけれどあんこのソムリエは食べないといけません♪
by スティッチの親分 (2006-04-16 22:45) 

桜井

あぁ、残念。あんこ談義は終焉をむかえていたのか・・・・

私の母方の実家は東京で和菓子屋を営んでおりまして、私は昔っから「こしあんとつぶしあん」と教えられ、そういい続けておりました。
が、近年、その親戚の和菓子屋でも「つぶあん」というじゃありませんか。

人に『あれは間違いだ。つぶしあんが正しいんだ、つぶあんじゃない』と、言い続けてきた私ですから、親戚に尋ねずにはおられません。すると、
「お客さんが、煮溶かした小豆をつぶしたものと勘違いするといけないから」とよくわからない答え。

煮溶かした小豆を漉したものがこしで、煮溶かしただけのものが「つぶし」だと思っていたので、そこに介在する「つぶす」という言葉が私の中でネックになっているようです。
職人をしている従兄弟に聞こうと思ったら、仕事が終わって遊びに行ったとのこと。
次の機会に確認せねばと思っていたら・・・けれど、新境地に足をふみ出すべく、調べるだけは調べようと思っている私です。
by 桜井 (2006-04-17 00:37) 

あまの

「銀鏡反応」さん。ずっとつきあってくださってありがとう。おひまだったら、連休あけに、またのぞいてください。こんどは言葉をめぐるバカ話をするつもりです。

「tami」さん。いつもいいコメントをありがとう。おかげで、バカな話をつづけられました。あ、東京の桜はもう散ってしまいましたが、桜あんぱんについてのおまけを、ご要望にこたえてつけましたぞ。

「ぶらっくびねがー」さん。これで、あんこの友になりましたね。あんこ学会の会員証はありませんので、ジャケットの襟にご自分で小豆の粒をつけてください。大納言が見栄えがしていいと思います。

「スティッチの親分」さん。わたくし、生まれも育ちも足立ですが、父が四国は松山の人、母が足立のおきゃんな女性だったものですから、こしあんともつぶあんともつかぬ不良品になりました。これからも更正につとめます。親分さんも早くステッィッチの世界から足を洗ってください。

「桜井」さん。そうなんです。ぼくも「つぶしあん」が正しいようにおもいます。ただ、「つぶあん」ということばもあって、それをつぶしたものを「つぶしあん」というらしい。世に出ているつぶあんの大半は、実はつぶしあんのようですね。また教えてください。
by あまの (2006-04-18 10:49) 

gillman

あーっ、遅かったか
こんにちは
 「あんこ」という目に見える文化のお話なので楽しく、具体的に身の回りの文化について考えることができました。そのうえ美味しいお菓子まで教えていただいて…
 天野さんのブログをきっかけに、菓子職人だった親父について少し考え直したところもありました。親父のこだわっていたもの、背負っていたものについてこれからも考えて行きたいなと思いました。
 現在は六十の手習いで大学院で言語教育学を学んでいます。動機は日本人としてのアイデンティティーについて考えたいということですが、ざっくり言えば「俺って何?」ということを死ぬ前に少し考えておくか、というくらいのものです。その時必ず心の中で見え隠れしてくるのが、日本人そして関東人としての自分の姿です。西と違うから面白い。じゃ、トータルで言うと日本人って何? 昨日もらった赤福を食べながら考えよう。
連休明けも期待しています。
by gillman (2006-04-19 08:09) 

あまの

「gilman」さん。参考になること、いろいろコメントしてくれてありがとう。次はことばの問題をやろうと思ってます。またのぞいてもらえたら、とてもうれしい。ほんと、ありがとうございました。
by あまの (2006-04-20 01:06) 

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